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特別記事 HOUSE VISION 2 2016 TOKYO EXHIBITION / LIXIL×坂 茂
凝縮と開放の家 (『a+u』2016.09 No.552 掲載)

上:南側より見る。ふたつの開口を開け放つと遮るものがなくなり、内外が連続する。
下:室内を見る。「ライフコア」 によって仕切りなしでリビング、 ダイニング、寝室を分けている。

HOUSE VISION 2 2016 TOKYO EXHIBITIONが東京青海で2016年7月30日から8月28日まで開催された。本展覧会は、企業とクリエイターがコラボレーションしてこれからの住まいのあり方を考えながら未来を具現化する試みであり、LIXILと建築家の坂 茂氏がチームを組み「凝縮と開放の家」を提案した。今回、HOUSE VISIONの展覧会ディレクターである原研哉氏と坂 茂氏、LIXILの深尾修司氏、羽賀豊氏で座談会を行い、HOUSE VISIONが目指すもの、展示内容、これからの理想の住まい像についてお話を伺った。

情報発信と研究のプラットフォーム

a+u: HOUSE VISIONとは、どのようなことを目指した活動なのでしょうか。

原研哉: HOUSE VISIONは、企業とクリエイターとのコラボレーションを通して、テクノロジーと知恵を生かした実践的な視点から未来を可視化していく活動です。現代の日本では、少子高齢化やひとり暮らし世帯の増加などさまざまな問題や課題があります。それらに対して具体的に「こういう暮らしをしたい」とか、「こうすれば上手くいく」という仮想を産業と共振させていくわけです。「家」をプラットフォームとして考えることで、現在の問題や日本の近未来の問題が分かりやすく提示できるのではないかと思い開始しました。この活動から産業の新たな成長点を見い出そうと考えており、2011年3月より建築家、研究者、企業、行政と研究を重ねています。2013年には新しい常識で家をつくろうというテーマのもと、HOUSE VISION 2013TOKYO EXHIBITIONを開催し、家を基軸とした新しい産業の可能性を提示しました。HOUSE VISION 2 2016 TOKYO EXHIBITIONはその第2回目となります(会期:2016年7月30日~8月28日)。

HOUSE VISION 2 2016 TOKYO EXHIBITIONのテーマは「CO-DIVIDUAL 分かれてつながる、離れてあつまる」です。個に分断された人びと、都市と地域、あるいはテクノロジーの断片をどのように再集合させるのか。その具体案を家を巡るアイデアとし実現しています。現代の生活を見てみると、テレビや冷蔵庫という単体製品から、家そのものが総合家電へと進化しています。やがて電力供給から通信・移動のシステムを含んだ大きな仕組みがハード、ソフトの両面で繋がっていくのではないでしょうか。クラウド技術やセキュリティサービスの進展によって、人びとは新たな繋がりを生み出し、空間を越えてサービスや関係を共有しながら暮らしていくスタイルも増えていく今、生活の充足について次の展開を模索する必要があると思います。

今回も、LIXILをはじめ日本の産業を牽引している大企業が参加し、各企業が建築家やデザイナーとコラボレーションして、今まで見たことがないような新しいアイデアが具現化されています。家というかたちで具体化することはなかなか難しいのですが、実際につくることで分かることも数多くあります。見学者にとっては、未来を見据えた空間を体験でき、見応えがあるものになっているのではないかと思います。

新しい住宅システムの構築

a+u: LIXILと坂 茂さんがコラボレーションして、「凝縮と開放の家」をつくられました。どのような家なのでしょうか。

原: 「凝縮と開放の家」は、両者が上手くコラボレーションした開放的で軽快さのある家で、いくつかの興味深い実践がなされています。後に説明されると思いますが、LIXILとは本展覧会以前から「ライフコア」と呼んでいる水回りユニットについて研究を重ねてきました。普段、フレキシブルで開放的な住宅を設計される坂さんならば、このライフコアを上手く生かした提案をしてくれるのではないかと思い、LIXILと坂さんのコラボレーションが実現する運びとなりました。

坂 茂: 「凝縮と開放の家」では、風呂、トイレ、キッチン、洗面という生活の「コア」を凝縮した水回りユニット「ライフコア」を導入しました。「ライフコア」は、給排水を床下ではなく上方で処理しており、躯体床から完全に独立しています。つまり水回りを部屋の

どこにでも配置することができ、部屋の自由なプランニングを可能にしています。また、大きいガラス窓を水平まで跳ね上げたり、半分スライドした位置で90度回転させ、家の側面方向にスライド収納できる「大開口部の機構」を導入しました。窓を開け放つとテラスと室内が一体的に繋がるようになっています。さらに、紙のハニカムボードを合板で挟んだPHPパネルを建築の構造フレームに採用し、屋根や外壁は防水性のテント膜をジッパーで固定するという斬新なアイデアで実現しています。この家は、施主がウェブ上で間取りを自在に設計できるソフトを想定しており、その点もユニークです。

深尾修司: LIXILとしてもコラボレーターとして坂さんが適任だと考えていましたが、今回の協働は期待をはるかに超える大変貴重なものでした。LIXILはHOUSEVISION 2013 TOKYO EXHIBITIONでも伊東豊雄さんと協働し「住の先へ」を提案しました。そこでは、風呂などの水回り機能を、リビングなどのドライ空間に置いた新しい生活価値の提案をしてまいりました。今回の「凝縮と開放の家」もその考えの延長にあり、建築における水回り空間のあり方を改めて考え直すことができました。

坂: 私は従来より、住宅をもっと簡単につくることができないかと考えていたのですが、初めてLIXILから「ライフコア」の説明を受けた時、建築躯体に置くだけでよいというその特徴は、私の考えと共鳴する点がありとても興味深く感じました。建築の平面計画において、コアの位置というのはとても重要です。ミース・ファン・デル・ローエによるファンズワース邸のコアは、空間の中央ではなく少しずらした配置にして空間に大小の場をつくり、仕切りなしにリビングルーム、ダイニング、キッチンが分けられています。このコアの配置が絶妙なんです。そのように、住まい手が自由に空間に「ライフコア」を配置することで、さまざまなプランをつくることができます。さらに、従来であれば躯体をつくりながら配管の工事をする必要があり、現場ではそれぞれ専門の職人が混ざって働いていましたが、「ライフコア」は建築の躯体に設備を一切埋め込む必要がないので、躯体工事と配管工事を完全に分離することができ、効率的な工事を可能にします。「凝縮と開放の家」は、このようにシンプルな建築構造システムでつくられているので、ウェブ上で住まい手が設計、見積もり計算ができるという想定をしています。普通、住宅を建てる場合は、建築家などの専門家やハウスメーカーにお願いしますが、このように躯体から設備コアが独立することで簡単に設計、施工、積算ができるようになります。屋根と外壁も防水性のテント膜を使ってジッパーで留めるようになっていて、テント膜を着せ替えたりと住まい手の好みを家に反映することもできます。

深尾: 坂さんと協働していく中で、従来にはない自由さと軽快さを持った住宅を実現することができました。住宅は人生の中で最も大きな買い物で、一大決心が必要です。しかし、少し違った考え方もあるかもしれません。水回りが自由になることで、スケルトン・インフィルが明快になり、インフィルだけでも自分の意思で好きな時に自在に充実させていく住まい方ができるのかもしれません。住まいと生活がより密着したものになると思います。

原: 現代の日本で、住宅を資産価値と捉えている人は少ないのではないでしょうか。東日本大震災以降、災害に対してどのように付き合っていくのかということが改めて考え直され、家を資産として考えるよりも住居としての家を見定めていくことが現代的であるように思います。坂さんは被災地の避難所での間仕切りを提案されたり、仮設住宅をたくさんつくられたきた経験をお持ちで、今回はそれを上手く現代社会の中にはめ込んで考えられたアイデアだと思います。この約50m2の家が500万円くらいでつくれたら、従来の家の考え方から変化が起こるかもしれません。住んでみると「凝縮と開放の家」の方が従来の家より快適かもしれません。家に関する常識についてそろそろ考え直さなくてはいけない局面に来ているのではないでしょうか。

坂: 「凝縮と開放の家」は実際にその程度の金額でつくることができます。現在、建築業界では職人が不足していますが、必要最低限以外、職人がいなくなってしまうことはもしかしたら避けられないことかもしれません。しかし、被災地のように職人がいないけど、たくさんの家を建てなくてはいけない状況は常にあります。そのため職人に頼らなくてもできる住宅のシステムが必要になっていると思います。

左:アクソノメトリック。中:紙のハニカムボードを合板で挟み込んだPHPパネルを構造フレームに採用。フレームの施工が簡単で軽量なので、土台の上に容易に設置することができる。右:家の表面は防水性のシートとジッパーで覆われており、簡単に着脱することが可能。

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