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玄関から考える住宅の可能性(後編)
玄関が変えるまちと住宅 (『新建築住宅特集』2015年10月号 掲載)

住宅は個人が所有するものですが、単体で存在するのではなく、街や周辺環境との関係において成立しています。その関係をどのように建築化するか考えた時、住宅において玄関は、内外を取りもつ重要な存在といえるでしょう。日本では、家を表象し、他者を応接するための場、民家のように生活を支えるものと共生する場など、さまざまな玄関があります。そして、人びとの生活が変化し、シェアハウスや住み開きなどの多様な住宅のかたちが現れてきた現代において、玄関にはどのような変化が見られるのでしょうか。この問いを前編(『新建築住宅特集』1509)に続き、議論します。第2回となる今回は、建築構法を専門とする研究者で、建築家の門脇耕三氏を司会に、建築家の原田真宏氏、武井誠氏に、玄関を通した住宅の可能性について、空間と設えの視点からお話いただきました。前編と合わせて、ご覧ください。(編)

デプスをとる装置 / 建ち方を表明する場

※文章中の(ex.『新建築』1007 )は、雑誌名と年号(ex.2010年7月号)を表しています。

門脇: まず原田さんから、玄関に関して普段の設計で考えられていることを、実作を交えながらお話いただけますか。

原田: 今回、自身の設計を振り返ってみたら、これまで特段、玄関から住宅を見てこなかったことに気づきました。そこで改めて玄関は設計においてどのような存在か考えてみると、奥行き、長さといった内外の間の取り方を調整するための〈デプス(deapth)〉なのではないかと思いました。そうしてはじめに思いついた気になる玄関は、ミース・ファン・デル・ローエの「ファーンズワース邸」です。高床式で外周に透明性があり寝殿造のようですが、なぜあれが成立するかというと周囲にある広大な森によって既にデプスを確保しているからです。では僕たちが都市環境においてどのようにデプスを発生させられるのか。その点で「near house」(2に図解/『新建築住宅特集』1007)はデプスの考え方を表す典型的な事例です。この住宅は旗竿敷地に建ちますが、旗竿は竿の部分で街から距離をとれるので、その性格を活かせば高密な街中でも静かな暮らしが獲得できると思いました。クライアントは社会との接点を積極的にもつ職種なので、その住まい方を活かすため、イギリス郊外の貴族の別荘に見られるゲートハウスの形式を用いたのです。敷地の接道側にゲートハウス、その先に住まいとなるメインハウスがあり、その間に中庭を配置しています。小さな小屋のゲートハウスは、 1階を奥さんのアトリエ兼ギャラリー、2階を旦那さんの仕事場とし、ここでだいたいの応接ができます。武家社会の玄関になぞらえられるような場です。そして中庭を通ると、天井高1.95m程度のお茶室の躙り口のような、メインハウスのプライベートな玄関に到着します。

門脇: ゲートハウスは社会との接点として、母屋から分離されていますが、住まいの不可分な構成要素でもある。不思議な空間ですね。

原田: そうですね。また同じく旗竿敷地に建つ「Tree house」(『新建築住宅特集』1002)は土間型の玄関をもちます。日本の民家形式である田の字型プランで、田の字に区切られたうちのひとつのブロックがモルタル仕上げの作業場で、キッチンが面しています。ここでは格式を求めるのではなく、土間的な緩やかな雰囲気をつくりました。また極座標によって平面、屋根が計画されているので、玄関は前面道路に対して斜めの構えをとっています。それは建築を律する秩序をほんのりと外に伝えるためです。日本の茶室も真・行・草のタイプがありますが、すべて入口の扱いが異なり、それぞれの内側の世界観を周囲に現しています。この住宅はこれらの茶室の形式にならって、玄関のつくりによって内側の世界観を外側に表明することを考えました。また空間を分節するすべての扉は引戸です。壁とドアによる玄関は内外を明確に分けますが、引戸だと緩やかに空間同士が繋がっていきます。キーワードとなるデプスは、街から内部、最後には寝室にまでいたるパブリックからプライベートまでのシークエンシャルな体験の設計であり、それは白から黒へのグラデーションのようなダイアグラムで示せるかもしれません。

門脇: デプスの取り方は作品によって異なるものの、デプスをとるという考え方は共通しているわけですね。

原田: 内側と社会や自然といった外側とが接する部分が玄関であるならば、今玄関のあり方に変化が起きているのは、その内側の定義が変化してきているからではないでしょうか。内側とは、これまでは家族のことでしたが、さまざまな住まい方が生まれるにつれ、内側が対象とするのは家族とは異なるグループである場合も増えています。伝統的な武家住宅の応接間としての玄関ではなく、もっと自由な存在としての玄関を再定義する必要があるのではないかと思います。

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