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連載コラム
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まちの仕掛け人vol.4 基地のまちの賑わいを。懐かしい昭和を楽しめる「立川屋台村パラダイス」

活気にあふれ、いきいきしているまちには、必ずといっていいほどまちを元気にしている仕掛け人がいます。新しいアイデアと、豊かなコミュニケーション能力を駆使してまちを盛り上げている、そんな人物にスポットを当て、彼らの活動の一端をお話いただきました。
第4回目は、JR東日本中央本線沿線の乗車人員トップを誇る立川駅近くで、ユニークな商業施設を運営している中野裕司さんに登場していただきます。

中野裕司(なかのひろたか)さん(中武ビルディング株式会社代表取締役社長)

1956年11月11日生まれ。申年、さそり座、O型。立川生まれ、立川育ち。
アメリカ、ミシガン州の大学卒業後、横田基地内で通訳業務に従事。
その後、都内ショッピングセンターにて修行後、祖父、父の跡を継ぎ中武ビルディング株式会社を経営。「フロム中武」、「フロムアミティ日野橋」、「立川屋台村パラダイス」の経営・運営・企画に携わる。

地元定着のまち、立川

私の祖父が昭和37年に、立川駅北口の駅前通りに当時としては珍しかったショッピングセンター「中武デパート」をスタートさせました。ショッピングセンターは、個々で営業する雑居ビルとは異なり、ビル全体で協力して運営していく共同販促のスタイルを取っていて、ここは全国で3番目に出来たという長い歴史を持っています。

昭和59年、父の代にリニューアルし、その際に名前も「中武デパート」から「フロム中武」に変更し現在にいたっています。私で3代目、跡を継いでから24年になりますが、10年ほど前から先代までの店舗構成とはコンセプトを変え、マニア嗜好の専門店を増やしたところ好評を得て、お客様が増えました。10代後半~30代の若いお客様が中心になりましたね。63店舗入っているなかには、以前から扱っている和装の店もありますが、ヘアアクセサリーなどのファッション小物をはじめ、アニメ関係、トレーディングカード、フィギュアなど百貨店では扱っていないものを取りそろえることによって、独自の客層を取り込むことができました。

十数年前に始まった立川駅北口西地区第一種市街地再開発事業によって、駅から市街地を回遊できるペデストリアンデッキができ、百貨店や映画館、ホテルなどの大型店は10店舗に増え、多摩都市モノレールも開通し、立川駅周辺は大きく発展していきました。ただ、私自身は立川で生まれ育ち、地元を毎日目にしているせいか、あまり変化に気付かないところもあります。地元の者として一つ言えるのは立川の方は保守的ですね。地元で過ごす方が多く、あまり都心部へ出掛けていかない。なので、都会的な文化ばかりを集めてきても受け入れてもらえない傾向にあると思います。地元愛があるところは、埼玉県の浦和とまちの雰囲気が似ているのではないでしょうか。

創業昭和37年という老舗のショッピングセンター「フロム中武」。外観にはフロム中武名物ともいえる個性的なキャッチコピーが掲げられている。コピーは中野氏自ら考え、2005年5月「立川は大丈夫」からスタートし、写真の「立川的瞬間(旬感)」で8フレーズめ。

フロム中武は、アニメ関連グッズがそろう「アニメイト」やフィギュアなどを扱う「ボークス」など、マニア向け専門店を集めたことで、若者から高い支持を得た。

懐かしさが新しい昭和レトロ

中武ビルディング株式会社では、フロム中武のほか立川から八王子方面へ向かう甲州街道沿いに「フロムアミティ日野橋」という飲食を中心とした複合商業施設も手掛けています。いま全国的に、屋台を数店集めた飲食スタイルが注目されています。職業柄、各地方や都心部を回って歩くことがたびたびあり、ほかにはあるのに立川はおろか多摩地域全体をみても屋台村のような集合体がない。ならばここで屋台村を始めたらおもしろいのではないかと思ったのが「立川屋台村パラダイス」をつくったきっかけです。

基本的なところは宇都宮の屋台村を参考にしました。屋台村の多くは、一つの建物内に複数の店が並び、その中心にテーブルを置くフードコートスタイルですが、それではあまり面白みがない。宇都宮の屋台村は一店舗ずつ独立して並んでいて、しかも屋外。一つのテーブルで終わってしまわず、お店をハシゴする楽しみがあります。

「立川屋台村パラダイス」の土地は、フロム中武から少し離れた駐車場だった場所を借りることにしました。メイン通りではなく裏通りになり、目立つ場所ではありませんが、ちょっと穴場的な雰囲気がいいのではないかと。不況なので、高い料金設定ではお客様がよろこばない。手頃な値段で食事ができて飲めて、しかも雰囲気があって、と遊び心のある店づくりを目指しました。そこで、フロム中武(中武デパート)が創業した当時は、立川が基地のまちだったことに着目したんです。戦後復興に地域が活気づいていた昭和30年代を意識して、レトロな店舗デザインにしました。中高年の方にはリバイバル感覚で、若い方には昭和の雰囲気を新鮮な感覚で楽しんでもらえると思います。

「パラダイス」というのは、実は私の祖父が立川で最初につくった飲み屋の名で、そこから付けました。学生時代、アメリカに留学し、帰国後は横田基地で通訳の仕事をしていたこともあってか、ほかから「英語ができるのに何だ、もっと洒落た名前にできないのか」なんて言われましたけど、これでいいのです。これこそ昭和30年代という雰囲気が出ているでしょう。

昭和30年代の立川の様子

昭和30年代のノスタルジーと遊び心を持った飲食空間「立川屋台村パラダイス」。建築評論家の松葉一清氏が審査委員長を務める「多摩のまちなみ建築デザイン賞」で審査委員長特別賞を受賞した。

テーマ性と多種多様な料理で、楽しい空間に

「立川屋台村パラダイス」では、飲食店を経営しているわけではなく場所貸しです。店舗ごとの経営になりますが、昭和30年代の屋台というイメージがありますから、コンセプトに同意した出店者を募り、こちらで指定したデザイナーによる店舗デザインで店づくりをしてもらっています。いずれの店でも要望を聞き、それに沿ってデザインしますが、同じデザイナーが店舗設計することで全体の雰囲気を統一させています。

建物に約3カ月、内装に約1カ月かけて完成させ、オープニング前には立川市長をはじめ商工会議所や地元関係者を招いて、レセプションパーティーを行いました。350名くらいの方がいらして、皆さん「面白いね」と誉めてくれるんですが、「今度、混んでいない暇なときにくるよ」って言うので「暇じゃ困るよ」なんて冗談で返していたら、オープニング後も役所や警察署、消防署、銀行など多くの方が、よく利用してくださっています。

昨年11月にオープンして以来、おかげさまで盛況です。具体的な数値をとっていないので正確なことは言えませんが、満席で待っていただくこともあるほどです。一業種一店舗という構成で、もつ焼き、串揚げ、寿司、ワインバーなど、十数店舗集まっています。1店舗に8席程度ですから、すぐに席が埋まってしまいますが、ほかの店で待って空いたら移って、と皆さんハシゴされて。客単価は2500円~3000円でしょうか。これで十分、食べて飲めます。男性客ばかりでなく、3名くらいでいらっしゃる女性客も結構みられますよ。小さな店ですが隣り合った知らない人同士で話が弾むこともあり、チェーン店ではみられない人とのコミュニケーションも楽しみの一つです。

特に宣伝はしていませんが、テーマ性のある屋台村ということが話題になるのか、地元紙をはじめ日経新聞や立川ウォーカーなどのメディアで何度か紹介されています。こちらから「オープンしました」といって押しつけがましく広告を打つより節約になって、しかもお客様の反応がいい。マスコミに取り上げていただけるような店づくりも大切なのかもしれません。

レセプションパーティーには地元関係者が多数来場。店舗の一つ「江戸前すし やぐるま」によるマグロの解体ショーも行われた。

明るい雰囲気なので女性客も多い。人気店の一つ「デラックスカフェ」。どの店でも手頃な価格で楽しめる。

オリジナル性を発揮して魅力あるまちに

不況なときですが、フロム中武では若干落ちた程度で売上げを維持しています。それは、マニア向けの趣味の店が多いからです。若い方は不況ではない。欲しいフィギュアがあったらアルバイトしてなんとか手に入れる。生活必需品ではないし、家計を預かっている客層ではない、というところが当たりました。中野や秋葉原まで行かないと周辺に置いていない商品ばかりですから。特にアニメ関係はセールを打つと、ウェブや情報誌をみて、全国から買いにきますよ。飛行機代をかけてくるお客さまもいるくらいですから、マニアは欲しいものにはお金に糸目をつけないのでしょうね。そんなことで我々としては、勢いよくとまではいきませんがギリギリで現状を保っています。今は、うまく流されていくしかない気がします。何をやっても駄目になることは駄目になる。大企業だって潰れてしまう時代ですから。流れに逆らったら溺れてしまう、だからといって止まってしまったら沈んでしまう。ぶつかりながらも流れにのっていく。そんな時代ではないでしょうか。

立川は夜が弱いまちで、飲み屋は別として、午後7時を過ぎるとガタッと客足が落ちてしまいます。今後は、夜も活気があるまちにしたいというのが希望です。大手企業の支店があり平日はサラリーマン、土日には若いカップルの姿がみられますが、チェーン展開している居酒屋ばかりで、地元ならではの飲食店が少なく、デートスポットや女性が楽しめる場がない。遊ぶ場所も映画館があるだけで、あとはゲームセンターです。私は吉祥寺が大好きで、立川屋台村パラダイスをつくる際に、何度かハモニカ横丁を訪ねました。路地に個人商店が連なって、学生が多いせいか安心して歩けるまちですね。

立川も地元ならではの楽しく美味しいお店が増えていけば、まちの魅力はもっと増してくると思います。今回の取り組みは、多くの方に支持されました。これからは単なる飲食店に留まらず、大人から子どもまで楽しめるような季節のイベントを行い、盛り上げていく予定です。「立川屋台村パラダイス」が将来の夢にあふれていた昭和30年代のように、活気あるコミュニティースペースなればいいですね。

立川屋台村パラダイス http://yatapara.com/

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