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連載コラム
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まちの仕掛け人vol.3 イルミネーションで「明るく、安心、歩きやすい」歌舞伎町に変えたい

活気にあふれ、いきいきしているまちには、必ずといっていいほどまちを元気にしている仕掛け人がいます。新しいアイデアと、豊かなコミュニケーション能力を駆使してまちを盛り上げている、そんな人物にスポットを当て、彼らの活動の一端をお話いただきました。
第3回目は、日本一の歓楽街と呼ばれる新宿・歌舞伎町で、有志や地元の人たちの協力を得て、区役所通りの樹木を10万個のイルミネーションで飾った仕掛け人・藤澤 薫さんに登場していただきます。

藤澤 薫さん(新宿歌舞伎町区役所通り3Aの会・理事長)

東京都出身。1984年結婚。歌舞伎町の住民となる。(株)チェックメイトの取締役を経て、1993年代表取締役に就任。2007年特定非営利活動法人(NPO)新宿区歌舞伎町役所通り3Aの会を設立し理事長に就任。歌舞伎町の街づくりに参加

歌舞伎町の住人になって25年。街への思いがエネルギーになって

新宿区役所通りに面したチェックメイトビルのオーナーに嫁いできたのが今から25年前。15年前に夫に先立たれたことから、その後ビルの経営に携わってきました。10年以上経った頃、女性一人では歩けないような怖いイメージのこの街をなんとかしなきゃいけないと思い始めました。ちょうど歌舞伎町の街をよくしようという機運がどんどん高まってきたところでした。

きっかけは、初めての女性区長・中山弘子さんが唱える「歌舞伎町ルネッサンス」が始まり、まちづくりの集会に何度か参加するようになったことです。2丁目町会のまちづくり協議会にも参加したりするうちに、話し合いばかりであまりにも何も変わらないことに驚きました。歌舞伎町というところは案外古い体質で、特に男社会というのは本音と建前があり、さまざまなしがらみがあって、なかなか実行に移せないんですね。

そんななかで、私がイルミネーションでもしたらいいのではないかと提案したら、「そんなことできないよ。だいたい資金はどうするんだ」と言われてしまった。しかしこの通りは、歌舞伎町で唯一1丁目と2丁目(旧西大久保)を通り抜ける道で約700メートルあります。そこに樹木が90本ほどあるので、イルミネーションをつけて明るくしたらいいのではないか、という思いがずっとありました。とりあえずその年は見合せましたが「こうなったらやってやろうじゃない!」という感じでしたね。失敗できないから最後は全部自分でかぶるつもりで始めました。そのくらいの覚悟がないと新しいことはできないですよ。

熱い思いが現実を動かす

やはりお金がかかることなので、どうしようかと思っていたら、お金を集めるのに一役買いましょう!と言ってくれる方が現れた。そこで二人でお金をある程度集めてから提案しようということになりました。最初の年(2006年)はラッキーでした。私とその協力者が予算の半分を集め、それ以外にも一つの企業がどんと出してくれたこともあり、寄付で賄えることになりました。ただそれを実行するにはまず区の許可が出ないとできません。それで中山区長に直接談判して、了解をいただきました。そのあと警察の交通課に行って道路使用許可をいただき、次に消防署に行きました。もし火事が出たら、梯子をかけるためにイルミネーションの電線を切る場合も出てくるがそれでもいいか、と念を押されたことを覚えています。私も熱をこめて話すものですから、みなさん思っていた以上に協力的でした。この年に、区と警察と消防の3者とばっちり話し合いができたことはよかったですね。

次に電気の問題が出てきました。東京電力に行ったら、電柱の下から電気をとるとなると、その工事にお金がかかるといわれた。それなら私のビルから電気を取って、すべての範囲をカバーできないかと相談したところ、なんとかできるということで、そうすることにしました。発光ダイオード(白色LED)も90本の木につけるとなると大変です。10万個買うだけで1000万円以上かかる。結果的に初年度は全部で2200万円かかりました。

点灯式は、どうせならゴージャスにやろうということで、区役所前の広場で、消防の音楽隊を頼んで賑やかにやりました。中山区長はじめ、新宿警察署長、新宿消防署長、東京商工会議所新宿支部会長や、商店街振興組合の理事長、町会の会長などをゲストにお呼びしてスピーチをお願いしました。それからカウントダウンしてファンファーレで点灯です。区役所前にはアケビ棚があるのですが、そこにもイルミネーションを巻きつけて光のトンネルにしました。区役所のシンボルツリーにもたっぷりの光が灯るので、靖国通りから入ると光のシャワーが歓迎してくれているようにみえます。

点灯式はNHKの6時、7時、9時のニュースで流れました。次の日の朝も「歌舞伎町が変わった」という見出しで放送され、新聞5紙で取り上げてくれました。こうしたメディアの応援は、心強かったですね。でも紹介されたのはこのとき1回きりなので、ぜひ5回目くらいに、がんばって継続していることを伝えてもらえたら嬉しいです。

区役所本庁舎の正面玄関前で行われた2006年第1回目の点灯式。東京消防庁音楽隊によるファンファーレのあとにイルミネーションが一斉に点灯された。

区長らの前で挨拶をする藤澤さん

2006年11月の新聞各紙ではさまざまな見出しをつけて歌舞伎町のイルミネーションを取り上げた。「歌舞伎町明るくなった!」(東京新聞)、「眠らぬ街イメチェン」(朝日新聞)、「ネオンより輝け10万個」(毎日新聞)、「ギラつく街キラつく冬に」(読売新聞)、「歌舞伎町3Kから3A」(スポニチ)など、どの紙もまちの活性化に期待を寄せている

継続は力なり

第1回目が2006年11月から2007年1月末まで、第2回が2007年11月から2008年1月末まで、そして今回の第3回は1カ月延長して2008年11月から2009年2月末日まで点灯します。まだ寒いのに2月1日からイルミネーションがなくなると寒々しい、バレンタインデーがあるのに暗いのは寂しいという声が多かったので、たいして電気代はかからないからと、リクエストに応えることにしました。

よかったことは、2回目のときから区役所のある1丁目の電気代を区がカバーしてくれることになったことです。電気代としては2カ月半でトータル約7万円ですから、今はその半分の負担で済んでいます。このように一つずつステップアップしています。

これまでやってきて感じたことは、オンナだてらにあんなことやって、というような割と冷ややかに見ていた街の人も、3回目になったら「よくやっているね」と言ってくれるようになりました。こうなったらがんばって4回、5回と続けていきたいと思っていますが、なにぶん寄付に頼っているものですから、少しずつ大きな会社を巻き込んでスポンサーを見つけていかないとと思っています。

去年あたりも資金がなかなか集まらなくて、それが一番のストレスですが、過ぎてみるとやっていてよかったなと。毎年850万円くらいはかかりますが、皆さんからの貴重なご寄附ですからなんとか無駄のないように考えて500万円くらいにおさえられたらいいと思っています。地道な努力が長続きするこつ。一人でも賛同してくれたり気持ちが通じたりできたらうれしいですよね。

2007年、第2回目の点灯式は、デキシーパラダイスの演奏でセレモニーが幕を開けた

ぼんぼり型のイルミネーションが歌舞伎町の冬のシンボルに

2008年の第3回目は、プラウディアグランドオーケストラの3人が点灯式の演奏を盛り上げる

どこよりも暖かい光と自負

今年の1月の話ですが、タクシーに乗って自分のビルに向かっているときでした。運転手が「歌舞伎町だっていうのにこのイルミネーションはしょぼいね。お客さんどう思う?」って言うんです。「あら、歌舞伎町は色にあふれてギラギラしているところに、こんな楚々とした光はかえって素敵じゃない。実は私がこれをやっている張本人なのよ。お客さんを乗せたら、しょぼいね、なんて言わないで、全部寄付でやっているらしい、と皆に宣伝してよ」と言ってやりました。確かに、丸の内や六本木ヒルズのように派手なイルミネーションではないので、しょぼいと思うのはしょうがないかもしれませんが、有志の皆さんの気持ちがひとつひとつの光にこもっていて、どこよりも暖かいイルミネーションになっていると自負しています。通りの途中、風林会館から2丁目は少し坂になっているので、見上げると本当にきれいですよ。それにいままで一度もいたずらや事故がないんです。ということは、みなさん結構喜んでくれているのではないでしょうか。

区役所のシンボルツリーとアケビ棚にはたっぷりのイルミネーションが飾られ、光のトンネルのような輝きを作り出した

歌舞伎町への思い

歌舞伎町というイメージがあまりにも悪すぎる。汚い、暗い、怖いの3Kで話題になりましたが、3Aの会のAは「明るい、安心、歩きやすい」です。歌舞伎町は世界に名だたる歓楽街ですから、歓楽街でいいと思っています。ただし、遊びにきて身の危険を感じることがないようにしたい。歌舞伎町はいつまでもハラハラドキドキする街で、楽しめる街であってほしいと思います。

私のビルではロビーが広々としているので、クリスマスにはコンサートをやっています。去年で8回目になります。何度か行ったことのあるアメリカのニューオーリンズは、歌舞伎町と同じ世界の歓楽街ですが、ジャズ発祥の地として知られ、いつも通りに音楽があふれています。せめてこのビルだけでも年に1度くらいは通りに音楽があふれるようにしたいという思いから始めました。

もう一つは「汚い」への対策です。2006年8月にイルミネーション事業を実施する任意団体を作り、翌年にNPOを設立しました。表参道がイルミネーションを始めた時は、人が押し寄せてゴミがひどかったと聞いたので、有志を募ってイルミネーション点灯時期は、毎週1回通りの清掃をしています。点灯時期が終わると月に2回になりますが、年間を通して清掃活動を継続しています。掃除の有志は、うちの社員のほかにイルミネーションの電気屋さん、早稲田大学の学生さんなど、その時によってメンバーは異なりますが、5~10人ほどでやっています。おかげではじめの頃に比べたら、道路のゴミはぐっと減っていますね。

自分で思うまちづくりを、まず自分からやってみせないと、と思っていろんなことに取り組んでいます。新宿区にもTMO(タウンマネージメントオーガナイゼーション)が立ち上がったと聞きました。これからはそうした組織と連携して、本当に楽しめる歌舞伎町にしていきたいですね。

※中心市街地における商業まちづくりをマネージメント(運営・管理)する機関

藤澤さんのビルの1階ホールでは、年に1回「クリスマスロビーコンサート」を2001年より毎年行っている。テナントさんや通りがかった人の反応は上々で、藤澤さんの「歌舞伎町を3Aの街にしたい」という思いのこもったイベント。

イルミネーション点灯期間は、毎週水曜日の午後3時から、区役所の職員さんたちが1丁目を掃除するのに合わせて有志で2丁目の通りを清掃。オリジナルジャケットをはおりいざ通りへ。

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