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連載コラム
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まちの仕掛け人vol.1 人が好き。コミュニケーション力から生まれた「渋谷音楽祭」

活気にあふれ、いきいきしているまちには、必ずといっていいほどまちを元気にしている仕掛け人がいます。新しいアイデアと、豊かなコミュニケーション能力を駆使してまちを盛り上げている、そんな人物にスポットを当て、彼らの活動の一端をお話いただきました。
第1回目は、音楽の聖地と呼ばれる渋谷のまちで、地元の人たちと一緒になってつくり出した「渋谷音楽祭」の仕掛け人・川上真由美さんに登場していただきます。

川上真由美さん(渋谷駅周辺地区まちづくり協議会事務局)

熊本県出身。学校卒業後、渋谷にある企業に就職。2004年より特定非営利活動法人(NPO)渋谷駅周辺地区まちづくり協議会の事務局としてまちづくりに参加。2006年に「渋谷音楽祭」第1回の実施を皮切りに、第2回(2007年)、第3回(2008年)をプロデュース。“音楽の街・渋谷”を国内外に大きくアピールしている。

変化の時期を迎えた渋谷に設立されたまちづくりNPO

渋谷駅周辺はいま、東京オリンピック以来の大きな変化の時期を迎えています。2008年の東京メトロ副都心線の渋谷接続にともなう駅の改修が行われ、旧・東急文化会館は、劇場やエキシビションホールなど情報発信の文化施設が計画されています。

新たなハード事業が進むなか、渋谷をより魅力的なまちにしていこうと、2004年に、地元の有志の方々とNPO法人「渋谷駅周辺地区まちづくり協議会」を立ち上げ、ソフトによるまちづくりを目指したのです。

設立後すぐに、当協議会のアドバイザーである安藤忠雄先生や旧東京都副知事を講師に、まちづくりについての講演会を開催しました。その後、都市景観向上のための緑化活動を考え、実施しました。当協議会会員の商店街振興組合から地域の花壇に花を植えたいとのお話があり、地域の人々が主体となって、当協議会はお手伝いというスタンスで一緒に考え、行動することにしました。早速、花壇の管理主である渋谷区へ説明に行くと、予想以上に早くOKとなりました。

立ち上がりにあたっては、知識があり、参加者が理解を深めて、楽しく参加できるよう、リーダーシップをもった指導者が必要と考えました。誰かを紹介されたわけでもなく、自分で適任者を探し出し、東京農業大学成人学校の副校長先生(当時)に直接、電話をして学校へ伺いました。先生に考えをお話させていただきましたところ、指導を引き受けてくださいました。このことで、参加者の意欲は高まり、また「自由デザインによることが愛着をもつことでもある」との先生のご指導のもと、思い思いのデザインで創り上げたことで、参加者の思い入れが強まったようです。小さな一歩でしたが、まちに愛着を持つ人が増えていきました。

2007年春~秋にかけての道玄坂周辺花壇。写真提供:渋谷駅周辺地区まちづくり協議会

渋谷というまちのブランディング

都市間競争の時代、外国人の来街者をもっと増やしたいということから、当協議会が独自で外国人観光客の調査を行いました。興味深かったのは、渋谷は「大勢の人たちが行きかうまちであり、人を見るだけでも楽しい」とのコメントが多かったことです。

さらに、渋谷の魅力をまちづくりに繋いでいくこととし、音楽資源などが集積していることなどから、「渋谷ライブエンタテイメント調査」を実施しました。文化村やNHKホール、メガストアなどは知られていますが、駅周辺には大小のライブハウスが30店舗ほどあることがわかりました。

また、映画館も多いのですが、特にミニシアターの数も3都市の中ではダントツですね。ただし、スクリーン数では新宿が一番です。シネマコンプレックス型が多く、ひとつのビルの中にまとまっています。渋谷のミニシアターはまちなかに点在しているので、まちを回遊しながら映画を楽しむことができるのもまちの魅力かと思います。

渋谷、新宿、池袋の3都市と比較しまして、ライブハウスの数は一番多い。今日活躍しているアーティストの多くは、無名時代に渋谷のライブハウスを中心に活動をしていました。楽器店も駅周辺には多数あります。

ユニークなのは、東急ハンズの先に「宇田川レコード村」と呼ばれるゾーンがあって、いまでは世界のDJたちが買い付けにくる名所になっています。ご近所の方から話をうかがったのですが、かつては日本からロンドンなどへ買い付けに出かけていたそう。

音楽でプロを目指す人々や音楽が好きな人々にとっては、渋谷は、「音楽の聖地」であり続けていると実感しました。そして、これからの文化を考えたとき、新しく何か持ってくるよりも、渋谷に根付いているものを引っ張り出して育てていくことが「文化」ではないかと思ったのです。

音楽で「安心・安全なまち渋谷」を訴求していく

そこで、地域の方々と大志を持って集まってくる若い人たちなどと一緒になって渋谷を盛り立てようと始めたのが「渋谷音楽祭」でした。

さまざまなアーティストを見ている彼らには、音楽業界の動向に押されることなく、いいと思うアーティストを推薦してもらう。この試みが奏功してか、結果、クオリティの高い、豊かさのある音楽祭になりました。正直、私もびっくりしました。とてもピュアなエネルギーにあふれていて、新しい音楽が常に生まれている感じがダイレクトに伝わってきたのです。音楽祭をきっかけにまち全体でアーティストを育てていこうという機運が出てきたようです。

それと同時に渋谷のイメージが徐々に変化していることを感じました。音楽祭終了後のブログやメディアで取り上げられた感想を見ると、「思ったより健全なまちなんだ」「渋谷全体がアピールされていて、とてもよかった」「街のイメージアップになったと思う」など、まち自体の感想を多くいただきました。今年は、地域の方々のさらなるご協力を得て、歩行者天国で音楽ライブやダンスを実施しました。学生さんのビッグバンドなども参加して、老若男女さまざまな世代、外国人の方々に足を止めて楽しんでいただきました。開催前に心配していたこと、例えばゴミですが、ほとんど落ちていませんでした。道にたまって騒ぐ人もなく、飲酒もありませんでした。とてもマナーよく安全に終えることができたことは、大きな自信になっています。参加するアーティストたちにも、地域の協力があって実現していることに感謝する気持ち、仲間意識が生まれてきているようです。

「渋音」ポスター。
27のライブハウスが推薦した32組のアーティストが、7つの会場(渋谷C.C.Lemonホール、マルイシティ渋谷・1Fプラザ、SHIBUYA109、渋谷マークシティ・イーストモール、渋谷東口跨道橋、道玄坂通り、文化村通り)に分かれ、11月15、16日の2日間にわたって、ライブを行った。第3回目の今年は、述べ4万人が訪れた。
公式ホームページ
http://shibuon.com/

渋谷東口跨道橋で演奏した慶応義塾大学のビッグバンド

丸井シティ渋谷での演奏の様子。街に音楽が溢れた。

渋谷は人がつくるまちであってほしい

音楽祭の仕込みはほとんど一人でやっているので、年中かかりっきりな状態です。でも、このことを通じて、多くの人とのコミュニケーションがあり、楽しんでやっています。私自身も幼いころはバイオリンを習っていて音楽に触れていたことと、好奇心旺盛な性格とが合わさり、この仕事がぴったりはまったのかもしれませんね。

今後の夢は、代々木公園など開催エリアをもっと広げて、ステージをまち全体にまで展開していきたいですね。そのためには地域の方々のご理解をいただき、渋谷音楽祭にもっと参加してもらいたいと思っています。さらに音楽だけでなく、アートやファッション、映像、ダンスなど、ジャンルを広げていきたいですね。それも市民パワーで。

個人的には渋谷はあまり変わらないでいてほしいと思っています。いつの時代でも人がたくさん訪れて、特に若い人が多いまち。若い人が多いということは、まちが活性化されているからだと思います。うれしいときも悲しいときも人が大勢いる中に入ると、気がまぎれる。坂道があって路地があって、すれ違うときに人と接するぐらい密度が高い。そういう人間味のあるまちだからこそ音楽が生まれてくるんだと思います。昼も夜も人がいて、まちが人を締め出すことがない。これからも渋谷は「人がつくっていくまち」であってほしいですね。

「C.C.Lemonホール」(渋谷公会堂)でのエンディングでは最高の盛り上がり。たくさんのアーティストと会場が一体になりました。
写真:姫崎由美

渋谷109前でのライブ。道路を歩行者天国にしてライブを実現したのは、この音楽祭が初めての試み
写真:東松友一

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