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連載コラム
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わたしを巡る風景vol.2 石川初さん 株式会社ランドスケープデザイン設計部副部長

人々の暮らしの空間を豊かに彩るランドスケープデザイン。この連載では、ランドスケープデザインに第一線で関わっている専門家の方々に、ご自身の景観にまつわるお話を伺います。
第二回目は、キリン日本橋ビル屋上庭園、品川シーサイドフォレストなどを手掛けている大手設計事務所「ランドスケープデザイン」の石川初さんです。

株式会社ランドスケープデザイン設計部副部長
石川 初
(いしかわ はじめ)

ランドスケープアーキテクト。1964年、京都府宇治市生まれ。東京農業大学農学部造園学科卒業。1987年、鹿島建設入社、建築設計本部環境設計部配属。91~94年、米国の設計事務所、HOKのセントルイス支社へ出向。99年、環境設計部が株式会社ランドスケープデザインとして独立、設計部に勤務する。共著「ランドスケープ批評宣言」(INAX出版)。NPO法人調布まちづくりの会理事、関東学院大学工学部建築学科非常勤講師。

――どんな風景が印象にありますか

東京湾周辺の地形段彩図。
標高が高いところは黄色く表示されている

城南島海浜公園から見る中央防波堤外側埋立

今、気になっているのは東京湾の中央防波堤外側埋立地、略して「中防」と呼ばれている場所です。地形段彩図で見てみるとよく分かりますが、高潮対策のために土を高く盛ったせいで、上野や本郷よりも埋立地の方が標高が高く、中防にいたっては標高30mにもなります。そして、大田区と江東区で帰属を主張し合っていて、まだどの区にもなっていないんです。

埋立地って常識外れなところがあって、そこが面白いですね。大井埠頭の一角にある東京港野鳥公園は、開発までの数年間にヨシ原が広って自然と水たまりができ、そこに野鳥が集まってきた。噂で観察に訪れる人達が増え、野鳥を守る運動が起こってできた公園です。城南島海浜公園は人工ビーチになっていて休日にはバーベキューやピクニックを楽しむ人で賑わうんだけど、空にはジェット機が“ガー”って飛んでいたりする。中防はそのビーチから見えて、これからどうなっていくか興味深いところです。

モニターで画像を見せながら解説する石川さん

京都や里山を見る場合、「風景を観賞する作法」がだいたい決まっています。それは文化でもあるのですが、誰が見ても美しいと思うように、すでに風景として出来上がっている。埋立地にはそれがない。生の地形が見えていて、見る側もこれがどういう姿なのか定めきれていない。今、工場ばかりを撮影した写真集『工場萌え』などが話題ですよね。ほかにもジャンクションや鉄塔、80年代以前の団地などに惹かれ撮り続けている人達がいます。HPや写真集を見ると本当に美しいのが分かります。産業遺産でなく、まさに稼動している、デザイン性よりエンジニアリング性が高い実用的なものが魅力的だと気づいた。風景はそうやって発見していくものだと思います。正しい観賞の仕方は何もないけれど、新しい風景に出会えたという感じがいいですよね。

世の中は、デザインされているもので溢れていて、息が抜けない感じがあります。埋立地や工場などの新風景は、こちらの都合で出来ていない、本物というかリアリティの固まり。デザインの対象からは外れていることが救いになっています。ランドスケープもデザインをやりきらず、ディテールとマスターをきちんとやったら、後はそこを訪れた人に任せる。間に人がコミットすることで空間が生きてくると思います。

――今、手掛けている作品はなんですか

GPS受信機を使ってその軌跡で地図上に絵を描く「東京ナス化計画」をホームページ(http://fieldsmith.net/gps/)で公開しています。もとは投稿写真で世界地図をつくる、緯度経度ぴったり地点探索プロジェクト「The Degree Confluence Project (http://www.confluence.org/index.php)」に参加するためにGPSを購入したのがきっかけです。GPSは一定間隔で時刻と位置を表示できるので、それを持って歩くと大きな地図の中に自分がいるのが証明されて楽しいですし、地形に敏感になります。今では「GPSを使ったフィールドワーク」を実践していて、大学の講義にも活用しています。東京農業大の学生にGPS受信機を持って歩かせ、ある場所の立体地図を制作したり、慶応大学の藤沢キャンパスでは、1983年の地図に現在の軌跡を載せることで昔と現在の地形の関連性について発見するワークショップをやりました。

GPS受信機を使う東京農業大の学生

当時1歳の子どもを背負って数十kmを移動した

東京ナス化計画を始めたのは英国のホームページ「GPSDRAWING(http://www.gpsdrawing.com/)」で地上絵アーティストの存在を知ったから。歩きかたで地図上に絵が描けるのは面白い、自分でもやってみようと。自宅は調布なので、その周辺や都内で描くとなると路地が複雑に入り組んでいるので、やみくもに歩いても絵にならないんですね。あらかじめコースを設定しないと無理そうなので、地図をにらんで最初に発見したのがアヒルの形。当時、1歳だった子どもを背負って自転車で杉並区、武蔵野市、三鷹市を45㎞、3時間54分かけてまわりました。そんな活動をしていたら、NHKなどのテレビ番組で紹介されるようなって、テレビ朝日の「タモリ倶楽部」では目黒区に巨大なタモリさんの似顔絵を描くという企画もやりましたよ。そして、最新作が「PORK光が丘」。光が丘団地を豚に見立てて描いています。

初の東京ナス化計画。アヒルの図
目黒区に描いたタモリの似顔絵
PORK光が丘

――これからやりたいことを教えてください

地図に絵を描く続きになりますが、水元公園周辺の川の流れがビーナスに見えてしかたないんです。場合によってはプロジェクト以上の綿密な計画が必要。なかなか時間がなくて実現できず、一年越しの企画になっています。地図を眺めていると、それとは違う図像を発見する瞬間があります。星空を見て星座をみつけた人ってこんな感覚だったと思うんです。

Before:水元公園周辺地図
ミロのビーナス
After:ナス化計画構想中・・・

結局、僕のしていることって、すべてランドスケープデザインという自分のプロフェッションの範囲にあります。やりたいことを追究していくと、会社での実務であったり、またそれとは違うランドスケープの関わりで、大学のデザインを教えることであったり、地上絵を描くことであったり。自分の中では矛盾なく広がっている。これらは自分なりの都市へのコミットメントなんです。

(株)ランドスケープデザインが手がける作品はこちらから

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