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連載コラム
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建築科研究vol.22 東洋大学理工学部建築学科(後編) 工藤和美

文・構成・写真:大西正紀(mosaki)

しかし、大学の枠を越えた活動には、それなりの予算がかかるのではないだろうか。学科内の予算システムについてうかがうと、また珍しい話を聞くことができた。
「東洋大建築では、他の大学とは少し違って、研究室には、本当に最小限の予算しか配分されません。その分、共有の実験実習費としての予算に充填されるのです。これってすごいシステムですよね。それぞれの先生が会議で提案して、納得されてものに予算がついていく。いい企画であれば、もっと予算を付けた方がいいよとなるときもあるくらいです。例えば、総合設計の活動からデザイナーズウィークなどへの出展など、すべてをフラットに出してもらって、対効果と予算の金額を考えながら、みんなで決めていきます。額に凹凸があっても、皆が納得すれば承認です。」
このシステムを利用して、東洋大建築では定期的に外部からゲストを招いたイベントが継続的に開かれている。また、一年を見渡してみると、どの授業にもたくさんのゲストが来ているのだそうだ。研究室という枠に閉じず、対外的なことにお金が使いやすい状態をつくっておく。年度末になると余った研究費を無理やり使おうとしている光景が、一般的な大学にあるのだとすると、実に合理的で、学生に寄り添った予算システムではないだろうか。

定期的に行われている連続公開講演会のポスター。2012年度は、建築家の伊東豊雄氏、五十嵐淳氏、構造家の佐々木睦朗氏がゲストとして招かれた。 定期的に行われている連続公開講演会のポスター。2012年度は、建築家の伊東豊雄氏、五十嵐淳氏、構造家の佐々木睦朗氏がゲストとして招かれた。

これまで10の大学を訪ねてきた。もちろんあくまでアーキテクトを輩出することを念頭においた東京芸術大学や京都大学のような大学とは置かれている状況、求められる教育が異なる部分もあるだろうが、それを差し引いても、ここまで「今」の社会的な状況や大学生に正面から向かい、それに不満を言うのではなく、それを合理的なアイデアと大学全体の行動力で次々とクリアしている学校は、はじめてではないだろうか。
最後に、今の学生たちの性質をどう見ているかということと、今後の東洋大建築について聞いた。
「設計が好きな学生は、昔も今も変わらないと思います。ただ、そうでない学生たちは、少し変わったようですね。昔は設計に向いていなければ、自分に向いているものを積極的に探そうとしていたと思います。けど、今の学生たちはそれをしない。放っておくと、自分で探さず、駄目な人みたいになっているんですね。設計ができたら「○」で、設計ができないと「×」みたいな。そうではなくて、あなたにはこれができるじゃないとその学生の「○」を見つけてあげる。建築の世界は、本当に広いじゃないですか。設計なんてのは、ほんの一握り。だから、大学卒業の先には、もっと大きな社会があるということを見せてあげるために、いろんなOBを呼んであげたりもします。
こういった考え方は、3年生の前期を分岐点に徐々に振り分けるカリキュラムや「総合設計」の課題におけるシステムでも考えていることは同じです。そしてこれは、建築の教育だけではなく、学校教育全体に共通することなんですが、どんな学校も入ってきたときに学力の差があるのが普通です。そのときに上のグレードに上がってこいと言うだけとか、下のレベルに合わせるというのでは駄目。そうではなく全体を支えることが必要なわけです。公立の小学校では、それが行われているのですからね。大学でもやらなくてはいけない、というのが私の見方です。

川越キャンパス内の風景。 川越キャンパス内の風景。

この5年を見ていても、学生の質の幅が随分広がってきているように感じています。世間では、今の学生たちが平和な時代に育ったから競争心がない、と言われますが、それを私たちは責めることはできません。ましてや、昔のハングリー精神を無理やり埋め込もうとしてもだめ。そうではなくて、どういう学生がここで4年間を過ごすのかということを観察し、その「今」の学生に対してどうするかということが大事だと思います。一方で、高校の授業の補講を大学がしなくてはいけないという状況もある。だから、まだまだ変わらざるを得ませんね。
今年、来年と先生が入れ替わる時期を迎えるので、また新しい先生を迎えて、より充実していく予定です。また、これからも新しいことができるかと思うと、今から楽しみでもあります。」

工藤 和美(くどう かずみ)シーラカンスK&H代表取締役/東洋大学建築学科教授
シーラカンスK&H代表取締役/東洋大学建築学科教授工藤 和美(くどう かずみ)

1960年、福岡市出身。1983年及び1985年、IAESTEスイス研修留学。1985年、横浜国立大学建築学科卒業。1986年、シーラカンスを共同で設立。1987年、東京大学大学院修士課程修了。1991年、東京大学大学院博士課程修了。1998年、シーラカンスK&Hに改組。 現在、代表取締役/東洋大学建築学科教授。

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