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連載コラム
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建築科研究vol.22 東洋大学理工学部建築学科(後編) 工藤和美

文・構成・写真:大西正紀(mosaki)

すべての学生に可能性を与える新しい建築教育を目指して

前回は、工藤和美さんが体験した学生時代の設計教育について。そして、東洋大学工学部建築学科(以後、東洋大建築と表記)に着任後、変え続けてきた設計製図での試みについて話をうかがってきた。後半では、3年生以降の具体的な課題内容について話を踏み込んでいく。

「2年生までは比較的軽めの課題にトライしますが、3年生になると敷地が大きくなって、より社会性をもった提案を求めるようになります。大学4年間の中で、この3年生というタイミングは、学生たちにとってもそれぞれの特性を判断し、より専門的な方向へ進めるように捉えるべきだと、考えました。
まず3年生の前期は第1課題と第2課題を設ける。第1課題は共通課題。ここで多くの学生たちはデザインができるかどうかという壁にぶちあたります。けど、そこで上手くいかなかった学生たちを切り捨てないように、第2課題では、課題の内容を選択できるようにしました。中でも今年度からトライしてうまくいったのが、選択の中に設けたリノベーションの課題でした。まず、ひとつの形(既存の建物)が与えられて、それをどうやって使っていくのか。プログラムと同時にインテリアを考えていく。そうすると、白紙から考えることが苦手だった学生たちも、どんどんデザインを進めていくんですよね。もうひとつの選択課題は、更地の敷地に考えていく課題です。最後の講評会はこれらを合同で行いました。」
設計デザインを諦めかけた学生が、リノベーションの課題になったとたんに新しい面白味をそこに見いだす。こうして生み出され続ける東洋大建築の課題やカリキュラムは、デザインができないから他の分野を選ぶということではなく、全ての選択肢が対等にあることを目指し続ける。ここに東洋大建築の最大の特徴がある。

取材当日は、3年生の設計課題の講評会が行われる日で、3年生の製図室は慌ただしくなっていた。午後からのクリティークを目指して、続々と学生たちが模型を運び込み、プレゼンボードを設置している。 取材当日は、3年生の設計課題の講評会が行われる日で、3年生の製図室は慌ただしくなっていた。午後からのクリティークを目指して、続々と学生たちが模型を運び込み、プレゼンボードを設置している。

「東洋大建築は、定員が一学年140人。2年生は例外的に180人もいて、再履修の学生も入れると200人もいるわけです。この彼らが全員作家性をもった人になるなんてありえませんからね。だからフラットに選択肢を与える。だから、もし設計が優秀な学生がいたとしても、その子が設計を選択しない選択肢もありえるわけです。社会のニーズも、建築という職能も変わり続ける中で、常に学生たちの出口を意識しながら考えるのが基本です。
だから、リノベーションの選択課題も来年はさらにバージョンアップさせて行う予定です。今、私は主に3年生と大学院生を見ていて、藤村さんには、2、4年生を見てもらっています。1学年跳ばしでお互いが担当し、情報を共有し合っています。常勤として藤村さんが入ってきて下さってことで、効果的なバージョンアップも、より軌道にのってきました。」 軸はぶらさずに、変わり続ける時代や学生に合わせて、各学年の課題を変え続ける。そこには「我が大学は、、、」といった伝統的な縛りは見ることができない。

新しい設計教育のかたち、その先に目指すもの

そして、4年生になると「総合設計」という名前の授業が行われている。聞き慣れない言葉だが、これは大学と行政、市民が一体となり、ひとつの課題に取り組むという画期的なものだ。そのきっかけからうかがってみた。
「朝霞市のまちづくりに長年関わられていた勝瀬先生の関係で、最初は朝霞の駅前などを敷地にして、市や行政とつながりをもちながら、課題を行い、その成果を駅や市の関連施設で発表するということをずっとやっていました。今年行った「鶴ヶ島プロジェクト」はたくさんメディアに取り上げられましたが、こういった試みはこれまでにも継続的に行っていたんです。
4年生にもなると、ある程度力がついてきているので、市民とも触れ合うことで、大学では得られない社会性も身につけられるという位置づけで「総合設計」は行われています。ここでも昔から、意匠や計画系の学生だけではなく、マーケティング系や企画系の学生も一緒になって取り組んで来ました。
今年取り組んだ「鶴ヶ島プロジェクト」には、4年生55人が参加しました。鶴ヶ島市と共同主催によるもので、鶴ヶ島市立鶴ヶ島第二小学校の約4600㎡の敷地に、小学校の機能に加えて、南公民館の機能と、地域が必要としているその他の機能を統合した、コミュニティの核となる施設をつくるというものです。
そこで、学生たちは「プランナー軸」「技術者軸」「作家軸」の3グループに分けられました。「プランナー軸」の学生は、人口推移や公共投資の現状、さらに他の自治体との比較などもリサーチしていく。「技術者軸」の学生は、実際の敷地に課されている法規制を考慮した設計を。さらに「作家軸」の学生は、それらをすべて受けて、さらに建築としての形をつくっていく。それぞれのグループのメンバーが入ったチームがいくつもつくられて、プロジェクトを進めていきました。」
この3つの編成は、リアルな社会での建築のプロジェクトを縮小したものになっている。例えば、「プランナー軸」「技術者軸」「作家軸」のそれぞれは、「デベロッパー」「ゼネコンなどの設計部」「アトリエ系の建築家」に対応している。
実際は、2週間に1度、学生たちが主体となり合計5回のワークショップを行っていった。その場で市民や小学生に対してプレゼンを行い、毎回投票が行われる。そして、仮想クライアントと対話が交わされたことで現れた問題点を次回の案に反映させていく。自分を日常の大学ではない別の視点から評価される体験は、学生にそれまでにない喜びと充実感をもたらすのだという。

「鶴ヶ島プロジェクト」のプレゼンテーション時の様子。大きな机の上に、各学生チームの案が模型で並べられている。ここへ市民も学生と一緒になって投票をしていった。 「鶴ヶ島プロジェクト」のプレゼンテーション時の様子。大きな机の上に、各学生チームの案が模型で並べられている。ここへ市民も学生と一緒になって投票をしていった。
工藤 和美(くどう かずみ)シーラカンスK&H代表取締役/東洋大学建築学科教授
シーラカンスK&H代表取締役/東洋大学建築学科教授工藤 和美(くどう かずみ)

1960年、福岡市出身。1983年及び1985年、IAESTEスイス研修留学。1985年、横浜国立大学建築学科卒業。1986年、シーラカンスを共同で設立。1987年、東京大学大学院修士課程修了。1991年、東京大学大学院博士課程修了。1998年、シーラカンスK&Hに改組。 現在、代表取締役/東洋大学建築学科教授。

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