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連載コラム
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建築科研究vol.20 京都大学工学部建築学科(後編) 竹山聖

文・構成・写真:大西正紀(mosaki)

パーソナルコミットメントに喜びを感じる建築家教育

京大を卒業してからちょうど15年。東大大学院を経て京大の教育の現場へ戻った竹山さんはまず、自分の学生時代とさほど変わっていないことに驚いた。あいかわらず締切りは形式ばかりで、とても講評会なんて行うことはできない状況だったという。少しずつ設計教育の改革がはじまる。

「まずは締切りを守らせることを徹底しました。あたりまえの話ですが。これは学生のほうは頑張ればいいだけだから特に問題はありません。きちんと締切りを守らせた上で、講評を行う。大変なのは先生たちでした。いままでやってなかったわけですから。このことは京大建築の大きなターニングポイントになったと思います。」

締切りが守られていなかったことと講評会が行われていなかったこと。これ以外のことは悪くはなかった。京大建築でそれまで行われ続けてきた日常的エスキスの対話には、他の大学にはない深い思考の積み重ねがあり、竹山さんは、それはそのまま活かそうとした。講評会でしっかりとしたプレゼンテーションの場をつくることで、先生たちと学生たちはより意見を交わし、従来持ち得ていた深い思考にさらに磨きがかかる。結果、このころから京大建築学生たちの質が上がりはじめたという。もともと潜在力を秘めていた学生たちをより輝かせるため、さらに改革は続く。

「その次に、カリキュラムを大幅に変えるために、各先生の課題をすべて見直しました。このときに本当に教育というものは影響力があって面白いと感じたできごとがありました。
課題にずらっと目を通してみて、こんな発見があったのです。学生たちの成績を見ていると、なぜか名簿の後半のB系列の学生から優秀な子たちが多く出てくるんです。前半のA系列、後半のB系列、それぞれを分析してみたら、A系列の課題は比較的厳しい条件の設計課題だった、一方B系列の課題は、非常にゆったりとした条件の自由な課題設定だったのです。同じ先生が順にAもBも担当していくのですが、たまたまAには厳しめの、その反動と言ってはなんですがBにはゆるやかめの条件が課されていた。
 つまりこのような傾向を持つ課題を4年間続けたころには、B系列の学生のほうがのびのびと取り組めるように成長していたということなんです。これに気付いてからは、課題を全部変えさせてもらって、あえて課題数を少なくしたり、先生方にも指導の際に配慮してほしいポイントを伝えるようにしました。」

現在の設計課題のカリキュラムを見てみると、一年生では、図面トレースと造形実習が中心で、設計課題は行わない。二年生になると設計課題ははじまるが、これもまた最初は機能を与えた設計をさせないという。例えば、二年生最初の課題では、講師陣の高松伸、岸和郎、竹山聖の3人が、それぞれ大学や鴨川近辺から好きな場所を見つけてきて、さまざまなテーマを与えた空間を創造させる。

「僕は「触発する空間」というテーマ。高松さんは「祈りの空間」というテーマ、岸さんの課題では、写真家を選び、その三枚の写真をどう展示するかを創造します。いわば建築空間を構想する面白さを体感するものです。建築設計とは、キッチンや諸室をただレイアウトすることではなく、ヴォリュームをもった空間であること、そこに入ってくる光のことなど、トータルで空間を構想することをさせています。
一般的に多くの大学は、設計課題の最初は、住宅やギャラリーなどを設計させると思います。けど、京大建築では、建築の基本は用途や機能を解くことではなく、空間そのものを構想することに重きを置きます。コンテクストを読み取り、素の場所にどのような空間をつくることが大事なのか。
僕が学生の頃の第一課題は20m×20mの敷地に「意味ある場所をつくれ」というものでした。「意味ある場所」って何?って感じですよね。そこを考える。意味とは、場所とは、と。いまのはじまりの課題たちは京大建築のそうした伝統を継承していると思っています。そしてそこのことが一番大事だと思うのです。
もちろん多くの建築は、コンテクストとプログラムを読むことからはじまります。コンテクストは場所や空間にひそむ秩序で、プログラムは時間も含めた機能的連関を空間に変換したもの。その二つを考えるべきなのだけど、それを学生たちに最初から求めるのは難しいと思います。例えば、劇場や美術館などを設計させると、機能分析にほとんどの時間をとられて、空間の構想に至らないということがよくあります。それをできるだけ回避したいという意図がそこにあるのです。建築とは最終的には価値ある空間を提示すること、だからです。」

竹山 聖(たけやま・きよし)京都大学准教授/建築家
京都大学准教授/建築家竹山 聖(たけやま・きよし)

1954年、大阪府生まれ。1973年、大阪府立北野高等学校卒業。1977年、京都大学工学部建築学科を卒業し、東京大学大学院に進学。原広司の下で修士課程、博士課程を修める。大学院在学中、1979年に設計組織アモルフを創設。1992年、京都大学助教授(現在、准教授)。1997年、京都大学、京都工芸繊維大学、京都府立大学、京都市立芸術大学、京都精華大学、京都造形芸術大学、の6大学で教鞭を執る建築家や学生とともに、京都建築大学ネットワーク(KASNET)を結成、ヴォルフ・プリックスやトム・メインを招聘し、ワークショップを行う。2009年以来はこれを母体に関西建築ネットワークへと発展させ、建築新人戦を立ち上げる。1998年よりスペイン・バレンシア工科大学、1999年よりパリ・ラ・ヴィレット建築大学で、ワークショップを行い学生の指導にあたる。建築新人戦では第1回(2009)の実行委員長・審査委員長、第2回(2010)、第5回(2013)の審査委員長を務める。

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