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連載コラム
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建築科研究vol.19 京都大学工学部学科(前編) 竹山聖

文・構成・写真:大西正紀(mosaki)

パーソナルコミットメントに喜びを感じる建築家教育

長年にわたり、京都大学工学部建築学科(以後、京大建築と表記)と親交が深いパリ・ラ・ヴィレット建築大学は、京大建築のことを"哲学的で思索的な大学"と評しているそうだ。しかし、そのことは建築あるいは建築家教育にとって良い効果をもたらすかは表裏一体。東京から離れた京都という場所で、建築を学ぶことと教えることを共に体験してきた京都大学工学部建築学科准教授の竹山聖さんは、それを強烈に感じながら、この20年間、大学の教育に従事してきた。そして、ここへきて京大出身の建築学生たちが、「卒業設計日本一」をはじめ、各所で上位入賞を総なめにしているのだ。京大の建築学科は、なぜ生まれ変わったのか。そこにはどのような背景と変革があったのかを竹山さんにうかがった。

大阪生まれの竹山さんが、高校卒業後、京都大学へ入学したのが1973年。当時の京都大学には、増田友也(1914-1981)という先生が、その中心いた。

「京大へ入学したときには増田先生という神話的な方がいたんです。60才くらいで、真っ白な長い髪の、ものすごくかっこいい人でした。ハイデッガーについて語っていた姿を、今でも覚えています。大学内に先生のアトリエがあって、増田先生のことを神様のように仰ぎみる関係がありました。僕らも先輩たちも、そういう中で、京大建築の伝統はつくられてきたわけですね。
 そこでは、デザインをする、つまり単に色や形を決めるということは本質ではなく、アーキテクチャーというものが重要な概念だと教えられていました。そして、そのためには、手を動かすのではなく、思索を深めるべきなんだと。」

そう教えられ京大での学部時代を過ごしていた竹山さんであったが、東京を訪れるたびに東京の建築学生たちの作品を見ては、京都と東京の力量の差に愕然とした。

「当時、東京では東京大学(以後、東大と表記)や早稲田大学(以後、早大と表記)が、力のある学校という感じがありました。まず、東大も早大も非常に手が動くわけです。東大については、さらに口も動く。京大は、口は動くけど、手が動かなかったわけです(笑)。
 具体的なプレゼンテーションの表現ひとつとっても、全く違いました。京大は、手描きのロットリングで、ごりごりハッチングをして、それをCHという写真印刷にする。一方、東大などは、スクリーントーンやパーントーンなど煌びやかなデザインツールを駆使していたり、早大は凄まじいペンシルドローイングに模型もぼんぼんつくられているのです。当時、京大の卒業設計で模型をつくったのは、同級生で僕だけでしたからね。それくらい差があったのです。」

現代とは異なり、インターネットなど何もない1970年代は、世界の情報も日本の情報も首都東京に集中していた。そして、東大や早大をはじめ日本の先端を行く建築系教育機関はもちろん、新建築社、彰国社、鹿島出版会などの建築系出版社もすべて東京にあった。まさに物質も情報も東京にあった時代。就職先においても、京都には著名建築家のアトリエ系事務所など存在しないも同然だった。アトリエ系はすべて東京に拠点を構え、ましてや京大を卒業して、東京のアトリエ事務所に就職することすら、難しかったのだという。
 情報過疎の京都という場所に住むことは、落ち着いた環境でゆっくりと考えることができるというメリットもあるが、竹山さんは自分の力をもっと試してみたい、と大学院から東大へ行く道を選ぶことになる。

竹山 聖(たけやま・きよし)京都大学准教授/建築家
京都大学准教授/建築家竹山 聖(たけやま・きよし)

1954年、大阪府生まれ。1973年、大阪府立北野高等学校卒業。1977年、京都大学工学部建築学科を卒業し、東京大学大学院に進学。原広司の下で修士課程、博士課程を修める。大学院在学中、1979年に設計組織アモルフを創設。1992年、京都大学助教授(現在、准教授)。1997年、京都大学、京都工芸繊維大学、京都府立大学、京都市立芸術大学、京都精華大学、京都造形芸術大学、の6大学で教鞭を執る建築家や学生とともに、京都建築大学ネットワーク(KASNET)を結成、ヴォルフ・プリックスやトム・メインを招聘し、ワークショップを行う。2009年以来はこれを母体に関西建築ネットワークへと発展させ、建築新人戦を立ち上げる。1998年よりスペイン・バレンシア工科大学、1999年よりパリ・ラ・ヴィレット建築大学で、ワークショップを行い学生の指導にあたる。建築新人戦では第1回(2009)の実行委員長・審査委員長、第2回(2010)、第5回(2013)の審査委員長を務める。

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