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連載コラム
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建築科研究vol.12 東北大学工学部建築・社会環境工学科〈後編〉

文・構成・写真:大西正紀(mosaki)

設計教育におけるスタジオ制の導入に取り組んだ1990年代。ロスから帰国した卒業生、阿部仁史が中心となって、教育システムの整備、魅力的な教員の補強を行った2000年代。そして、2010年、東北大学工学研究科 都市・建築学専攻は、新しく地域と連動する新しい教育プログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン」を開校する。2000年代、世界に直接繋がる実績をあげた大学が、今、何故、大学内大学とも言える新たな試みを始動させたのか。前半に引き続き、これからの展望について、小野田泰明さんにうかがう。

東北・仙台から世界を見据えて

地方都市がダイレクトに海外の都市とつながる状況は、"インターネットのように"と言うとイメージし易いのかもしれない。インターネットは、世界中の人がパソコンやOSというディバイスを共有するという前提のもとでつながっているが、仙台では東北大学工学研究科 都市・建築学専攻という組織が、世界とダイレクトにつながる装置としての機能し始めているのだ。

「例えば、アメリカを見てみると、ロサンゼルスやシアトルといった地方の都市が、ワシントンやニューヨークなどを経由せず、直接海外とつながっています。もちろん外交は政府がやりますが、それ以外は都市同士がダイレクトにコミュニケーションして、人やモノを直接動かしている。阿部さんがいらした当時、偶然、僕もアメリカでの生活を体験していたので、話をするなかで、東京以外の地域が「地方」と呼ばれ萎縮しているように見える日本のほうが不思議な状況だという意識は、すんなり共有できた。これは別に"反東京"ではなく、東京は東京、仙台は仙台というふうに考えることであり、外に対しても北京、メルボルン、ロス・アンジェルス、どこともダイレクトにつながっていく水平的な思考です。今、来て下さっている先生方も、そういう価値観が共有できる方に集まっていただきました。」

海外にダイレクトにつながる試みとしては、国際ワークショップが挙げられる。東北大学では1999年からUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)と合同ワークショップを行うなど、早くからこうした活動に取り組んできたが、2002年にはさらに組織的な枠組み「WAW=World Architecture Workshop(国際建築ワークショップ)」を立ち上げる。これは、4大陸5カ国の首都ではない都市にある建築大学が共同で取り組む、大学院レベルの多国籍デザインスタジオだ。仙台の東北大学・東北工業大学・宮城大学とフランス・モンペリエのENSAMによって創設され、次いで、オーストラリア・メルボルンのRMIT、アメリカ・アナーバーのミシガン大学、スペイン・バルセロナのカタルーニャ国際大学とELISAVAが加わり、各大学の都市を巡回しながら、毎年ワークショップを開催している(http://tonchiku.archi.tohoku.ac.jp/groups/waw/)。このワークショップは、「都市・建築設計Ⅱ」という大学院後期の授業にあたり、一級建築士の実務認定科目でもある。

WAWの二重性を示した概念図。WAWは、「国内課題」と「国際ワークショップ」の2つのフェーズからなり、それぞれに都市的なビジョン(マスタープラン)と建築的なプロジェクト(建築デザイン)の2つのスケールでデザインに取り組んでいる。参加学生たちは、まず2ヶ月間母国内で事前課題に取り組み、その成果を持って、2週間に渡る国際ワークショップにのぞむ。 WAWの二重性を示した概念図。WAWは、「国内課題」と「国際ワークショップ」の2つのフェーズからなり、それぞれに都市的なビジョン(マスタープラン)と建築的なプロジェクト(建築デザイン)の2つのスケールでデザインに取り組んでいる。参加学生たちは、まず2ヶ月間母国内で事前課題に取り組み、その成果を持って、2週間に渡る国際ワークショップにのぞむ。

「WAWは、いくつかの大陸にまたがった先進国の都市にある大学同士の繋がりで、持ち回りでワークショップを展開します。ホストになった大学はその都市が直面する問題をワークショップの課題として提示するのですが、各国の学生はそれに参加することで、グローバリゼーションという抽象的な概念を都市独自の問題として身体的に理解出来る訳です。毎年、ワークショップを開催する大陸を変えて、そこに各校が集まる形式をとってきて今年末で10年になりますが、各国のメンバーとは蓄積した国際的設計教育方法論を成果としてまとめようという話もしています。
 WAWと平行する形で、2006年から拡大・成長するアジアの代表である中国に飛び込む「チャイナスタジオ」(都市・建築設計Ⅰ)を始めました。これは、私と北京で活躍する建築家、松原弘典さん(慶應義塾大学准教授)、清華大学建築学科長の許懋彦さんの3人で動かしています(http://d.hatena.ne.jp/china-studio/)。
 「チャイナスタジオ」は、日本の形成に歴史的に大きな影響を与え、かつ近年急激に発展している隣国中国へ行くわけですが、そこで学生たちは、自分たちの文化の根源と建築ビジネスの未来を同時に考えます。先のWAWが先進国間の共時的課題、いわば水平軸とすれば、これは過去と未来をつなぐ垂直軸と言えます。我々が大学院の一年次に学生に課すのは、国際的視点から創作者としての自分を立体的に見つめ直すワークショップなのです。」

前回も述べた「フラットかつオープンな関係の中から建築を生み出そうという」というメッセージは、ワークショップの構成からも読み取れる。さらには、既存の価値観にとらわれず、建築デザインを多面的に捕らえようとするこうした姿勢は、学内の研究室体制にも色濃く反映されている。例えば、小野田さんの研究室は社会構造と建築の関係、五十嵐太郎さんはメディアと建築、本江正茂さんはITによるコミュニケーションと建築について探求しており、石田壽一さんはアーバンランドスケープを標榜するなど、それぞれ独自の角度から建築にアプローチしているのだ。これらの取り組みがようやく定着してきた2010年、東北大学工学研究科 都市・建築学専攻は、次の段階となる新教育プログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン」を設立する。

東北大学では、紙メディアも大変充実している。左:国際ワークショップWAWは、開催年ごとにそのプロセスを全て一冊の冊子にまとめている。中身はバイリンガルだ。右:東北大学建築学報「トンチク」は、 五十嵐太郎責任編集のもと、東北大学建築学科のデザイン系の活動を紹介したもの。ここまでデザインされたタブロイド型の学報はみたことがない。 東北大学では、紙メディアも大変充実している。左:国際ワークショップWAWは、開催年ごとにそのプロセスを全て一冊の冊子にまとめている。中身はバイリンガルだ。
右:東北大学建築学報「トンチク」は、 五十嵐太郎責任編集のもと、東北大学建築学科のデザイン系の活動を紹介したもの。ここまでデザインされたタブロイド型の学報はみたことがない。

「2007年に阿部さんは、東北大学を去り、カリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAチェアマンとして就くこととなりました。阿部さんが柱となって教育事業を展開している部分もあったので、次にどのような体制を作り上げられるかは、正直課題でした。 そんな中、2009年に阿部さんと入れ替わりに来られた石田壽一さんから、大学院の教育研究強化に関する国の支援事業を活用しようという提案を頂きました。意外と知られていませんが、横浜国立大学大学院Y-GSAはその立ち上げ期に文部科学省による「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」の支援を受けていますが、僕らも、精緻に教育システムを設計しつつ人材や資金を組み込んでいく段階に来ていた訳ですね。一方で、新企画は仙台という都市に根ざしたものにならなくてはという想いも強くありました。東北大学大学院 都市・建築学専攻では、デザイン系、計画系、構造系、サスティナブル系に分かれて、一学年50人ほどが学んでいますが、卒業生のほとんどは東京に就職します。地域をグローバルな流れに直結する教育をやってきたのですが、学生の供給先を見ると東京一極集中に加担していた訳なんです(笑)。」

写真左:2010年11月3日、せんだいメディアテークにて行われた「せんだいスクール・オブ・デザイン」の開校式の様子。SSDの開校は、さまざまなメディアに取り上げられた。建築外からの期待の高さがうかがえる。 写真右:「Futureラボ」は、外部の建築家を講師として招き、建築の未来について実験的に考えてもらう企画である。講師の建築家たちは、仙台という東京とは異なる場所で、日々の実務の中では、じっくりと考えることが出来ない課題について掘り下げる機会を得る。また、ラボでは東北大学の他分野の先生方との連携による技術提供も受けられるようになっている。SSDで現在「Futureラボ」を担当しているのが、平田晃久氏、石上純也氏、二人の若手建築家である。写真は、参加者と議論をする平田氏。 写真左:2010年11月3日、せんだいメディアテークにて行われた「せんだいスクール・オブ・デザイン」の開校式の様子。SSDの開校は、さまざまなメディアに取り上げられた。建築外からの期待の高さがうかがえる。
写真右:「Futureラボ」は、外部の建築家を講師として招き、建築の未来について実験的に考えてもらう企画である。講師の建築家たちは、仙台という東京とは異なる場所で、日々の実務の中では、じっくりと考えることが出来ない課題について掘り下げる機会を得る。また、ラボでは東北大学の他分野の先生方との連携による技術提供も受けられるようになっている。SSDで現在「Futureラボ」を担当しているのが、平田晃久氏、石上純也氏、二人の若手建築家である。
写真は、参加者と議論をする平田氏。

石田壽一が提案し、本江正茂がフレームを描き、五十嵐太郎、小野田泰明が加わって、仙台市と共同での企画作りがこうして始められる。2010年には、文部科学省が運用する科学技術振興調整費(JST)の獲得に成功し、同11月「せんだいスクール・オブ・デザイン(以下、SSD)」の開講にこぎ着ける。SSDは、メディア/環境/社会/コミュニケーション/国際からなる5つの軸を設定したデザインスタジオ「PBL(Project Based Leaning)スタジオ」、さまざまな領域の先端研究を活用しながら建築デザインの可能性を拡張する「Futureラボ」、アウトリーチから最先端スキルの獲得まで領域を横断的に学ぶレクチャーシリーズの「Interactiveレクチャー」の3つからつくられている。


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