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連載コラム
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建築科研究vol.10 「横浜国立大学大学院/建築都市スクール」Y-GSA〈後編〉

建築学科設立から84年を経た2007年に開校された「横浜国立大学大学院/建築都市スクール」"Y-GSA"(Yokohama Graduate School of Architecture)は、日本では先駆的な建築家教育の実験場として、この3年間に何を蓄積してきたのだろうか。前半に続き、より具体的にY-GSAで行われてきたこと、またこれからの展望について北山恒さんにうかがう。

対談

「開校してから4年目を迎えますが、初年度から毎年100名以上のY-GSAを志願してくれる学生がいます。スタジオ制教育で有効な人数を想定して、現在は最低でも16人、最大で20人を入学させるようにしています。次年度に予定されている新大学院「都市イノベーション学府」がスタートすれば受け入れ人数を少し増やす予定です。
Y-GSAの入学試験では、全600点中300点を設計デザインに関係するものとしています。開校から数年で在学生のコンペティション入賞率がすごく高くなってきたところをみると、そういった難関をクリアした学生にスタジオ制教育を行ってきた、ひとつの成果が表れていると思います。
このスタジオ制に特徴的なのは、各スタジオが、大学院1年生、2年生が縦割りになっていることです。セメスターごとに各スタジオへの希望を取り、そのスタジオに所属するのは10人程ですが、1年生、2年生、時には3年生もシャッフルされた状態でメンバーが構成されます。これはスタジオそのものを学びの共同体にする意図があります。そういった教育を数年続けてみて実感するのは、やはり同じ課題に取り組んでいても、学年が上の学生の方が、確実に実力が上がっているということです。スタジオ制教育とはデザインの実践のなかで膨大な理論を習得することです。だから、どうしても経験することが大事です。最初は大変ですが、途中でやめることなく、その場、その場は全力でやりなさいと、われわれは常日頃、プロセスを進めることを学生たちに伝えています。」

これまで話してきたような教育システムさながら、Y-GSAはその教育の拠点をどの場所に置くかということにも試行錯誤を重ねてきた。建築というものは、都市の中におかれるものだからこそ、実際の都市を相手にしたスタジオにしなくてはいけない。だからこそ、大学キャンパスという枠を飛び出して、横浜という街の中にY-GSAの拠点をつくろうと、開校当初は横浜の馬車道近くに建つ築40年近い古いビルの3,4階にスタジオを構えた。まだ、Y-GSAができる以前、当時の北山研究室、西沢研究室の学生たちがペンキを塗り、Y-GSAの最初の拠点はつくられたのであった。その後、より良い場所を求め、横浜市への交渉を重ねたが計画は断念。そして、昨年度から横浜市保土ヶ谷区の大学キャンパスへ戻ることとなる。

「日本では建築をつくることが、とくにオタク的、美学的な閉じた世界に入っていく傾向があります。そうではなくてもっと外へ開いたところで建築は考えられなくてはなりません。なぜなら、建築というものは、必ず都市の中にあるものだし、だからこそ都市を語る建築家が必要なのです。そういう想いがあって、Y-GSAでは、都市・横浜市を相手にするような建築家教育をしたいと思っていました。

理想的には、東京芸術大学大学院映像研究科が横浜市の旧富士銀行横浜支店・旧安田銀行横浜支店に拠点を構えたように、横浜市の都市部に拠点を持ちたかったのですが、なかなか交渉がうまくいきませんでした。これ以上、場所が定まらないことにも問題がありましたので、結果として昨年、大学キャンパス内に戻り、リノベーションした校舎で再スタートをきりました。けど、それでも狭すぎた。そこで、この4月からキャンパス内で使われなくなっていた500平米のボイラー室を改修し、そこをY-GSAの拠点として使いはじめることになりました。この3年間で、Y-GSAの基本的理念は山本理顕さんに固めていただきました。そして場所も、ようやく定まったというわけです。」

こうして新しく「パワープラント・スタジオ」と名付けられた新スタジオが2010年4月にオープンした。そこに広がるのは、40名程の学生を教育するための500平米のスペース。驚くべきは、学生ひとりに10平米弱ものスペースが与えられていることだ。図面を描いたり、模型をつくったりすることはもちろん、スタジオ課題のエスキスが行われる共有のミーティングスペース、さらにレクチャーやプレゼンテーション、シンポジウムまで対応できる200平米のホールも設置されている。学生たちはそれぞれ自分たちのデスクを拠点に、日々さまざまな場所で行われる出来事を、適宜、取捨選択していく。

写真:キャンパス内のボイラー室をリノベーションした「パワープラント・スタジオ」ホール内観。 設計は、設計助手のメンバーを中心に行われた。(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール) 写真左:キャンパス内のボイラー室をリノベーションした「パワープラント・スタジオ」ホール内観。設計は、設計助手のメンバーを中心に行われた。
    (写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール)
写真右上:キャンパス内のボイラー室をリノベーションした「パワープラント・スタジオ」外観。
写真右下:山本スタジオの設計課題エスキスの様子。(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール)
写真:2010年7月、「パワープラント・スタジオ」ホールにて行われた前期スタジオの最終講評会の模様。この時は、4教授の他に、建築家の千葉学さんと松原弘典さんがゲスト・クリティークとして加わった。(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール) 写真:2010年7月、「パワープラント・スタジオ」ホールにて行われた
前期スタジオの最終講評会の模様。この時は、4教授の他に、建築家の千葉学さんと
松原弘典さんがゲスト・クリティークとして加わった。
(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール)

Y-GSAの学生企画としてレクチャーシリーズも行われている。写真は、2010年7月に行われたテキスタイルコーディネーター・デザイナーの安東陽子さんによるレクチャーの模様。(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール) Y-GSAの学生企画としてレクチャーシリーズも行われている。
写真は、2010年7月に行われたテキスタイルコーディネーター・デザイナーの安東陽子さんによる
レクチャーの模様。(写真=横浜国立大学大学院/建築都市スクール)

「これまでの場所は、狭かったりフロアが分かれていたのですが、今回オープンした「パワープラント・スタジオ」はワンフロアで、ゆとりをもったプランニングをすることができました。これまでと同じカリキュラムやイベントごとを行うにしても非常にやりやすく、また学生たちものびのびと"建築を考えること"に対峙できます。
毎回、講評会は非常にオープンな形で開催します。特に最終講評会では、山本、飯田、西沢、北山の4人の教授以外にも外部からゲスト・クリティークとして建築家を招き、全40名程のクリティークを一日かけて行います。プレゼンテーションと質疑応答をひとりずつ行い、最終的にはすべての先生による学生への採点が全部張り出される。だから、どの先生が何点をつけたかが分かりますし、先生同士もどの学生を評価したのかが分かる。もちろんここで、規定の点数に達しない者は落第し、卒業が半年延びることとなります。また、全4スタジオの全スコアを加算し、最高点を取った学生には"Y-GSA賞"というものを与えるようにしています。こういった方法に学生に対して厳しいのではという意見もあるでしょうが、われわれが目指す徒弟制の教育はそもそもストレスがかかるのです。しかし、若い時期にこそストレスをかけて勉強をさせなくてはいけない。すべての能力が、とても伸びる時期ですからね。」


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