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連載コラム
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建築科研究vol.2 広瀬鎌二〈後編〉「細さ、軽さ」をかたちにした日本の技術力

海外で浮き彫りになった広瀬建築のちから

新居さんがアメリカに渡ったばかりのことだった。

「ある日カーンに言われたの。あなたは便所が相当大好きなんですね、って。 言われたときわけがわからなかったんだけど、その時僕は、便所のタイルの目地を延々と切っていた。そんなことする人なんて他に誰もいない。もちろんこれは、広瀬さんが徹底的に細部まで描くことを指導したせいなんだけれど、カーンから見たら、便所の目地をきる時間があったら他のことをやった方がいい建築家になると思うんだがどうかね、って。」

広瀬の建築教育を受けていたらごく当然のことが、外から見ると偏執的なまでの徹底だったというのだ。しかしこれが役に立った。

「便所だけでなくて、僕は機械室の容量の計算とかも全部できた。英語があまり得意でなかったので、留学してまず始めに同じ課題を同時に2つ提出した。それを見てカーンが『彼は天才だ』って言って。カーンが認めた天才なんだから飛び級してもいいってことになっちゃって。つまり、言葉ができなくても何ができるか、目で見てわかることが身についていたわけ。」

新居さんは広瀬の著書「伝統のディテール」等をカーンに見せる。

書籍に感動したカーンが広瀬宛に書いた直筆の手紙のコピー。日本の現代建築は西欧の真似だという一方で、広瀬がつくる建築のように、デザインの真髄はディテールにあるとし、広瀬に賞賛と敬意を示した内容となっている。これに対し広瀬も「この広い世界に同じようなことを考えている建築家がいること、それが世界的に高名な、カーンの言葉として聞くことのできたことに、多大な感銘を受けるとともに、改めて自信を持つことができたのである。」(引用元=「JIA NEWS 1998.02」)と記している。

「それはやっぱり、カーンに僕の卒業した学校や広瀬さんのことを見て欲しいという思いがあったから。武蔵工大で広瀬さんが教えていた、ディテールや部材に対する考え方は、もうそれだけでどこでもやれるレベルになっていたと思う。他に誰から習ったわけでもないのに、水はどう切るとか、金物の厚みとか、授業だけで全部身についていた。カーンには生き方や建築の根本的なことを学んだと思っているけど、広瀬先生からは建築の現実的な部分を叩き込まれた。」

著書を通じて広瀬に共感を覚えたカーンは、後に直接広瀬へと手紙を送ることとなる。

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