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連載コラム
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家の知/討議 第8タームvol.35 “新しい公共性”(2/3) 工藤和美×千葉学×真壁智治

大多喜町役場庁舎

提供=千葉学建築計画事務所

最後は「大多喜町役場庁舎」です。これはこの今井兼次(1895-1987)設計の大多喜町役場を対震改修し、さらに増築をするというものでした。既存の建物は、今井さんが1950年代終わりに設計をしたものです。大多喜町は、房総半島のちょうど真ん中あたりにある、とても気持ちの良い盆地状の場所にあります。このプロジェクトは、大多喜町がこの建物を残すことを前提に開催したコンペがはじまりでした。ここで僕たちは、「時間と空間を紡ぐ物語」といったことを考えました。この建物は、1959年竣工ですから、ちょうど僕の年齢とも近かったこともあって、個人的に思い入れの強いものとなりました。

提供=千葉学建築計画事務所

実際に現地へ行ってみると、建物はあちこち傷んでいました。写真は、改修前の事務室です。断熱もないし、後付けでエアコンがありますが、全然効かないので、いたる所でストーブをたいて仕事をしているという状態でした(笑)。

提供=千葉学建築計画事務所
提供=千葉学建築計画事務所

今井さんはガウディに傾倒していた方でもありました。だから、至る所に興味深い造形がある。こういうものも大事にしながら改修をするにはどうしたらいいのか。コンペ提出時にとても悩んだことでした。

提供=千葉学建築計画事務所

少し余談なのですが、これってご覧になったことありますか。びっくりしたのですが、ここに貼り付けられているものは、タイルではないんですね。当時、大多喜町に今井さんがいらしたときに町を歩いていて見つけた瀬戸物などの器を壊して貼っているんです。だから、よーく見てみると、中にはおちょこがあったり、いろんなモノを発見できる。
つまり、今井さんは、今で言うワークショップに近いようなことをやっていたのではないかと僕は推測したのです。今井さんは、設計をしながら、町を歩き、そういうものを地元の人から集めてきて、それを実際に貼るようなことを、もしかしたら市民に参加させながらやっていたのかもしれない、と感じました。

提供=千葉学建築計画事務所
提供=千葉学建築計画事務所

左はトップライトです。雨漏りはひどい状態だけど素晴らしい。右の写真にあるような、こういう金物も、あちこちに残っていました。

提供=千葉学建築計画事務所
提供=千葉学建築計画事務所

一方、大多喜町には、このような江戸時代の町屋がたくさん残っています。こういうものを僕らは何らかの形で引き継がなくてはいけないとも思いました。町には、当然瓦屋根の庁舎をつくるべきだという声もあったようですが、ただ瓦屋根の形だけを模倣するわけにはいきません。

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

そこで、僕たちは、最終的にはこのように大梁の上に小梁が乗り、その上にトップライトが乗っているような構造の大空間をつくることを提案しました。

提供=千葉学建築計画事務所
写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

その理由の一つは、やはり既存の今井さんの建物によるものです。今井さんによる既存の庁舎は、4m近くある高さの空間を12mのワンスパンでつくっている。これは、当時としては大スパンです。しかもこれが、実にシンプルな門型の骨組みでできている。

提供=千葉学建築計画事務所
提供=千葉学建築計画事務所

一方、町屋を見て回ると、そこでは日本の小屋組みに特徴的な重層的な骨組みがあると改めて気付くことがありました。これらを自分たちなりに物語のように紡いでつくっていきました。

:提供=千葉学建築計画事務所
写真=西川公朗

写真=西川公朗

結果、上の写真のような大型のフレームが重なり合ったような大空間に行き着きました。

写真=鈴木研一

 写真=鈴木研一

役場は、基本的には事務空間ですが、やはり小さな町にとっての役場は、市民にとってより重要な町の中心なんです。この感覚は、都会に住んでいると感じることが少ないのですが、大多喜町のような町に暮らす人々は、税金や健康、いろんなことを相談しに役場へ行きます。だから、町の中心としての象徴性を備えながら、しかし事務所としては、これからも長い間自由に使えるような冗長性も備えた空間にしたいという思いのもと、このような建築をつくったわけです。

写真=西川公朗

 写真=西川公朗

天井からの光はいろんなふうに屈折しながら入ってきます。構造的には、鉄骨のボックス梁の上にH綱の梁が重なっています。

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

既存部分の改修については、基本的な考えは変わらなかったのですが、実際に現場に乗り込んでから、考え方はどんどん変わっていきました。通常、改修においては、自分たちが新たに手を加えるものが、古いモノとある種対比的に、つまり古いモノと対峙するような関係に陥りがちです。しかし今回は、何かそういう考えがおかしいように思い始めたのです。新旧は対峙するのでなく、また時間というものは本来連続的である。つまり古いモノも新しいモノも、本来はシームレスであるべきだと。

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

写真=鈴木研一

今一度、僕たちの目で、今井さんの建築の良いところや、これからこうしたいと思うことを、自分たちなりに解釈し直して、その都度一つひとつ、個別に判断を積み上げていくような形で進めていきました。一つひとつの箇所を、逐一吟味していって、残すべきもの、作り直すべきもの、新たに加えるものを考えていく。場合によっては、既存の建具を、僕たちなりに再編集して再生したり、あえて光の入れ方や壁紙を変えることも行いました。

提供=千葉学建築計画事務所
提供=千葉学建築計画事務所

ですので、ここで行ったことは、純粋な保存でもないし、かといって全く別物にしたわけでもない。どこからどこまでが今井さんで、どこからどこまでが僕たちなのかが、あまり分からないようなつくりかたをしたのです。時間を紡ぐとは、そういうことではないかと思うのです。

真壁:千葉さん、ありがとうございました。それでは次は、工藤さん、千葉さんのプレゼンテーションを踏まえた上で、お互い議論をさせていただこうと思います。

※特記以外はすべて、提供=千葉学建築計画事務所

  • ゲスト 工藤和美(くどう・かずみ) 建築家/東洋大学建築学科教授/シーラカンスK&H代表取締役

    ゲスト

    工藤和美(くどう・かずみ)

    建築家/東洋大学建築学科教授/シーラカンスK&H代表取締役

  • ゲスト 千葉学(ちば・まなぶ) 建築家/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授/千葉学建築計画事務所主宰

    ゲスト

    千葉学(ちば・まなぶ)

    建築家/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授/千葉学建築計画事務所主宰

  • モデレーター 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    モデレーター

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

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