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連載コラム
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家の知/討議 第8タームvol.35 “新しい公共性”(2/3) 工藤和美×千葉学×真壁智治

  • ゲスト 工藤和美(くどう・かずみ) 建築家/東洋大学建築学科教授/シーラカンスK&H代表取締役

    ゲスト

    工藤和美(くどう・かずみ)

    建築家/東洋大学建築学科教授/シーラカンスK&H代表取締役

  • ゲスト 千葉学(ちば・まなぶ) 建築家/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授/千葉学建築計画事務所主宰

    ゲスト

    千葉学(ちば・まなぶ)

    建築家/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授/千葉学建築計画事務所主宰

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    モデレーター

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

連載「家の知/討議」第8タームは、建築家の工藤和美さん、千葉学さんを迎え「新しい公共性」というテーマのもとに議論を展開します。前回の第8ターム1回目、工藤和美さんのプレゼンテーションに続いて、第2回では、千葉学さんのプレゼンテーション。近作の住宅から工学院大学の校舎、そして話題の改築プロジェクト「大多喜町役場庁舎」にいたるプロジェクトの中で、千葉さんがどのようなことを考えつくってきたのかをうかがい、次回最終回での討議にのぞみます。

Inokuma residence

真壁:それでは、次に千葉さんのプレゼンテーションをお願いします。

千葉:最近は住宅を設計する機会が減ってきたのですが、今回は最近竣工した「Inokuma residence」という住宅をひとつ紹介します。この住宅は神奈川県大和市の中央林間に建っています。お施主さんは、若いご夫婦。元々は母屋があって、その隣に古いアパートがありました。そのアパートを建て直して、娘さん夫婦が住むことになったわけです。

中央林間という場所は、この何十年で開発されてきたエリアです。きれいな宅地ができている一方で、やはり半分くらいは空き地や駐車場になっています。そんな中にこの敷地はあります。この住宅は全体としては約30坪という平屋の小さな家です。

30坪というと、一般的には極小住宅の部類に入るのですが、このエリアですと相対的には土地に余裕があるので、スタディを重ねる中で、僕たちは極小住宅を平屋でやろうというふうに思ったのです。けれども、平屋でつくってみると思いの外、30坪って大きいのですね。

Inokuma residence:イメージ

この住宅の最大の特徴は屋根裏があることです。基本的には全ての部屋が独立しているのですが、屋根裏で全部の部屋がつながっています。ここはリビング、ダイニング、写真の左側にはベッドルームがあって、左奥が玄関、右側にキッチンがあって、キッチンの裏には子ども部屋があります。

ここでは、「つながること/はなれること」について改めて考えようと思いました。これはいつも考えていることではあるのですが、家族といえども、基本的には子どもはいつか自立して、家からはいなくなります。あるいは夫婦も一緒に暮らしながら、別々の時間を持ちたいというところもある。

Inokuma residence:イメージ

これは正面の写真です。いつもは閉鎖的な表情ではなく、家の中の様子がもう少しあふれ出てくる住宅の方がいいと思っているのですが、今回は少し閉じた表情です。というのも、今回の敷地のエリアは、街路があまり成熟していない。その一方で、やはり建坪率が低いので、庭を介して住宅地がつながっていっているような、郊外住宅のある種典型的な良さがあるんですね。だから、それを生かそうと思いました。写真の右側にはお庭があって、その先に母屋があります。反対側は立体駐車場なんかが連なる風景がある。

Inokuma residence:イメージ
Inokuma residence:イメージ

だから、庭を介して、隣とつながっていくことを意図して、建物を基本的に南北方向に細長い部屋にして、南側、北側それぞれに開口部を設けるようにしています。

子ども部屋も南北方向に幅2mと細長い空間です。幅2mだと狭そうですが、意外とこれくらいが気持ちいいものなんです。今はひとりで使っていますが、将来二つに分けられることを想定しています。

Inokuma residence:イメージ
Inokuma residence:イメージ

このように比較的部屋はきちっと作りながらも、でもどこかでつながっているような家はできないだろうかと、最終的には天井裏を全部つなげてみようということになりました。左は平面図。右は断面図です。断面を見ると、天井裏でつながっているのがわかります。僕は小さい頃、古い木造の家に住んでいたのですが、天井の裏に顔を出すと、家の全部が見渡せる、あの壮大な体験が原風景になっているのかもしれません。

Inokuma residence:イメージ

梁が東西方向に掛かっています。これは屋根を支える梁でもあります。高さが1.2mぐらいあるので、ロフトよりもちょっと低いぐらい。基本的にプランとしては居住ゾーンはきちっと分かれていて、でも天井裏はこの構造体によって全部つながっています。

Inokuma residence:イメージ

天井裏の部分だけが飛び出して、玄関前のひさしをつくっています。玄関前に立つと内部の光が漏れてきます。通りとの関わりは、このくらいささやかな気配のみとなっています。

Inokuma residence:イメージ

キッチンの上は、ロフトになっています。キッチンの向こうが子ども部屋。
子どもたちがロフトに上がると手前のリビングを見下ろせる関係が生まれます。

Inokuma residence:イメージ
Inokuma residence:イメージ

左が平面図、右がロフトの高さの平面図です。キッチンやお風呂の上に設けたロフトは幅は2mくらい。玄関側に設けたロフトは、幅が600mmくらいなので、こちらは上がることは想定していません。

Inokuma residence:イメージ
Inokuma residence:イメージ

幅2mのロフトは、このような感じになっています。

東西方向にも、このような感じで抜けているので、基本的に家中をぐるぐるまわることができるようになっています。

Inokuma residence:イメージ

それぞれの部屋がロフトでつながっています。声や音、光が家の中をぐるぐるまわっている状態になっています。このように近代建築が置き去りにしてきた屋根裏の良さみたいなものを、もう一度考え直してみようという思いの一方で、都市のインフラにもなり得るプロトタイプとしての住宅ができたらいいなという思いもありました。そこで、構造的にはほとんどが105角の部材で全部くみ上げられるようにつくっています。木造は通常いろんな大きさの梁が出てくるのですが、ここではほとんどが同じ部材でできている。もちろん部分的に、例えばキッチンだけは大きくしてオープンにしたいという意向があったので、そこだけに大きな梁が入っていたりするのですが、それ以外は、壁も梁も屋根を支える部分もすべて同じ部材でできています。

※「Inokuma residence」写真はすべて、西川公朗

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