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連載コラム
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家の知/討議 第5タームvol.26 “場所性”と“形式性”の間で(2/3) 木下庸子×乾久美子×真壁智治

  • 木下庸子(きのした・ようこ)工学院大学建築学科教授/設計組織ADH代表

    木下庸子(きのした・ようこ)

    工学院大学建築学科教授/設計組織ADH代表

  • 乾久美子(いぬい・くみこ) 東京藝術大学美術学部建築学科准教授/乾久美子建築設計事務所代表

    乾久美子(いぬい・くみこ)

    東京藝術大学美術学部建築学科准教授/乾久美子建築設計事務所代表

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

変わり行く核家族とともに生まれる新しい形式

真壁:それでは乾さんに続いて、次は木下さんのプレゼンテーションをお願いいたします。

3人が独立して暮らす家

木下:今日はふたつの住宅を紹介させていただきます。まず、これは「TN」という住宅です。10年ほど前に設計したもので、敷地は代官山です。旧山手通りから坂を下った後、曲がった突き当たりが敷地で、敷地の北側には西郷山公園が広がります。元々一区画だったところを四つに区分けして、オーナーが最後の敷地を購入されたのです。そこで、購入される際に、どのようなものが建ちうるのか、考えてくださいとの依頼がありました。家族構成はご夫婦とご主人のお母様の3人。しかし、3人はいい意味で独立されていて、一緒に暮らしながらもそれぞれ相応に自分の生活を持っていたのです。あまり一緒に食事をすることもない様子でした。
当時、私は核家族というものは戦後の日本社会が描いた理想像であり、実際にはそういった理想化された家族像はもはや崩れてしまっている、と感じていました。むしろ、私たちが自分たちの著書の中で用いた「非核家族」という表現の方が的確ではないか、と思っていたのです。この3人の大人たち(=非核家族)が独立した生活を保てるような住まいを提案することが、ここでの課題でした。

DINKS + SINGLE = 非核家族

敷地についてもう少し説明しますと、建築面積50%、延床面積100%の敷地で、敷地面積は100平米程度です。ただ、前面が計画道路になっているので、道路に面する部分が4mくらい削られてしまうわけですね。敷地の大きさとしてはおそらく、乾さんの「アパートメントI」が8m×6mということでしたので、こちらの「TN」は11m×9mと一回り大きいくらいですね。けど、そこから4m分がカットされてしまうと、建築面積は約45平米になってしまう。上の写真が実際にできたものです。最終的には、さまざまな法的緩和を利用して延床面積を185平米強まで確保することができました。例えば、そのひとつとしては、まず隣地である西郷山公園の地盤面の算出を詳細に行い、敷地との間にある3m以上の段差を利用した高さ緩和により、地下2階の上に3層を重ねた5層の住宅が可能となったわけです。1層分のフットプリントは乾さんの「アパートメントI」と近いなと思いました。

このように建築面積が45平米の敷地に建った5層分の住宅のなかに3人の大人の住まいをどう構成するのかということが最も大きなチャレンジだったわけです。具体的に説明すると、まず前面道路から少し下がったところに地下1階の駐車スペースがあります。「車の部屋」という表現からもわかるように、ご主人は車が趣味で1人で3台持っている方なんですね。そこからさらに下階へ降りると「AVルーム」というもうひとつのご主人の趣味の部屋がある。
地上部は道路から半階上がるとメインのフロアである1階に出ます。玄関の他に3人の共有空間で私たちが「辻」と呼んでいた「コモン」があります。さらにそこに付属する形でお母様の部屋とお母様専用の水周りがあって、コモンのテーブルの一部に蓋を開けると専用の洗面も用意されていて、小さな空間でありながらもお母様の生活がすべて完結できるようになっています。
そこから1層上がると中2階。奥さまはプロフェッショナルなお仕事をされていて、また衣類もたくさんお持ちでしたので、奥さま専用の「スタディ」と「クローゼット」を設けました。そして、最上階がご夫婦の寝室で西郷山公園に向かって開いています。

[クリックで拡大]

断面はこのように、地下階のご主人の趣味の部屋と最上階の若夫婦の部屋が、中間階の奥さまの部屋、お母様と3人が集うメインフロアをサンドイッチするような構成となっています。

大きな開口部によって外部とコンタクトのある生活 左:「コモン」から南側を見る。バルコニー越しに前面道路が見える。
   右側の引き戸を開けるとお母様の部屋がある。
右:「コモン」から北側を見る。
   吹抜けには中2階の奥さまの「スタディ」ルームへ渡るブリッジが飛ぶ。

ここが2層吹抜けのコモンスペースです。この上にご夫婦の寝室があるので、プライバシーを考えると距離を確保するために吹抜けを取ることが有効に機能します。私は都市型のコンパクトな住宅を設計する際は意識して住まいの中にゆとりを持たせたい、と考えています。吹き抜けや回遊性を用いることはコンパクトな住空間設計においては共通して考えていることです。

中2階の2室は共に妻の仕事のためのスペースである。

これは吹き抜け上に浮く中2階部分のブリッジ。中2階には広めの「クローゼット」スペースと、同じくらいの広さの「スタディ」スペースがあります。実は「スタディ」には、現場の段階で生まれた、奥行き550mmの細長い収納が設けられました。このスペースは、吹き抜け部キッチンの吊り戸の上なのですが、吊戸上部の空間をどう有効に使うかというスタディをしているうちに、吊戸裏を中2階側から使うこともできるということを思いつきました。これは、毎回脚立を出して使用する吊戸の上部よりずっと有効に使える収納となりました。

先ほど、計画道路の事情で4m分セットバックをせざるをえなかったとお話しましたが、その部分には主要部分のコンクリートに付属する形で、鉄骨を跳ね出して「コモン」から続く半屋外のテラススペースをつくりました。ここはルーバーを設け視線を遮るようにしたのですが、正面の坂を降りてくると、ある地点からルーバーとテラス、そして「コモン」越しに裏手の公園まで抜けて見えるのです。できあがったあとに気づいたことですが、都市では視線を遮ることばかりを考えがちですが、内部のものが気にならずに抜ける視線というものも意外と有効であると感じました。

設計の途中で、隣の公園があるために、その平均地盤面の関係で高さが確保できたことはお話ししましたが、それによってらせん階段を敷地の奥に上から下まで通すことができました。右の写真は最上階の寝室です。

①:階ごとに機能を区分[クリックで拡大]②:傾斜地を活かして[クリックで拡大]プランの発展
③:2つの動線[クリックで拡大]④:緩和条件で階段の位置が決定[クリックで拡大]⑤:中2階の誕生[クリックで拡大]

これがプランを検討するプロセスをまとめたものです。いくつかのプランを経て最終案に至るわけですが、こうして改めて眺めてみると、どのプランも動線のことを重点的に考えています。近いようで遠い動線、隣に部屋があるのに、すぐには行けない、といったような…。 例えば、先ほどの乾さんの住宅でも、住宅の中心からどの部屋にもアプローチできるわけではなく、逆に回遊できるなど、少し迂回するように動線を考えたとおっしゃっていましたが、私もそういったことが、小さな住宅であるほど重要なのではないかと感じています。

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テーマ:「場所性(コンテキスト)」と「形式性(フォーム)」について in 工学院大学
木下庸子×乾久美子×真壁智治

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