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連載コラム
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家の知/討議 第4タームvol.23 集まって住むことの新しいかたち(2/3) 西田司×中川エリカ×篠原聡子×真壁智治

  • 西田司(にしだ・おさむ)

    西田司(にしだ・おさむ)

    1976年、神奈川生まれ。横浜国立大学卒業後、建築設計スピードスタジオ設立、共同主宰。 2002-05年、東京都立大学大学院助手。2004年、オンデザインパートナーズ代表。 2005-07年、首都大学東京研究員。2007-09年横浜国立大学大学院助手。

  • 中川エリカ(なかがわ・えりか)

    中川エリカ(なかがわ・えりか)

    1983年 東京生まれ。2005年 横浜国立大学卒業。2007年、東京芸術大学大学院修了。同年オンデザイン。

  • 篠原聡子(しのはら・さとこ)日本女子大学准教授/空間研究所

    篠原聡子(しのはら・さとこ)

    日本女子大学准教授/空間研究所

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

自分の場所のようになじむ場所

真壁:この「ヨコハマアパートメント」は、横浜市や行政の中でも、次第に認知される存在となってきているそうですね。

西田:2010年の夏に、「インビテーションヨコハマ」という横浜市と市の財団が、横浜のいろいろな文化芸術拠点を紹介するイベントを開催しました。BankARTや黄金町などアート系の拠点施設が紹介されていたのですが、その中のツアーコースにこの場所を入れて頂きました。イベントの期間中は、横浜市の方が、この場所までツアー参加者を案内してきて、僕らが解説を行いました。そういう機会が、横浜の方々にこの場所を知って頂く大きなきっかけとなっていると思います。

真壁:このアパートのように住まい方や場の使い方という意味では、他に気になっている生活拠点などはありますか。例えば、横浜の黄金町プロジェクトなどは、また異なるのでしょうか。

中川エリカ

中川:黄金町プロジェクトは、アートやプロダクトの制作の場所としては使われているのですが、やはり居住しながらというわけではないようです。逆に、生活ということで言えば、特に建築的というわけではないのですが、あのエリアは、古い一軒家があるような下町なので、そこをシェアして住むということは、日常的に起こっているようです。普通の一軒家を自分たちで改装して、住んでいる。

西田:生活の拡張という話でいうと、例えば大きな空間をシェアしていると、その場所は、自分が呼んだ友だちが居ても、同じところで小さい子どもが遊んでいても大丈夫だし、近所のおばさんが来て立ち話をしても大丈夫。昔の大きな家だと、そういうことが日常だったかもしれないけれども、一人暮らしで東京に住んでいると、なかなかそういった大きな家は持ち得ないと思います。一つの住まいの中に、そういう「大きな家」という要素さえも内包できているのは、住まい手が何かを制作するアーティストでなくても、普通の人もここの使い方と空間の大きさを重ねて、多様に使い倒せるのではないかと実感しています。

篠原:すでに終了してしまいましたが、「松陰コモンズ」という世田谷にある古民家を7人でシェアするプロジェクトがありました。そこでは、昔の民家をシェアして、増築したところが個室になっていて、続き間のような場所をみんなでシェアしていました。その共有空間では、ときどき友だちが来て宴会をやったり、田舎から出てきた自分の親を泊めたり、外に向けてイベントをやったりしていましたね。この空間よりもう少し住居寄りの使われ方をしていました。

真壁:これからあるべき「ヨコハマアパートメント」の好ましい状態や地域との関係がどんな広がり方をするのか、あるいは入居者のかたちについて、何か今後のゆくえについて考えていることはありますか。

西田:1年間ほど、僕はここの動きを近くで眺めながら、「ヨコハマアパートメントブログ」に観察日記みたいなのを書き留めています。振り返ると設計者であるオンデザインが誘導することもなく、この1年間は比較的定期的にイベントが起っています。先ほど中川も言っていましたが、そのイベントは例えばtwitterのようなかたちで、遠方から来た方がつぶやくと、また別の方が遠方からやってきたりする。地域の方が地域のことをつぶやくと、本当の口コミになり、その日のうちに近所から人が来たりもします。実はこういった活動の告知は通常地元と繋がりづらいと思うのですが、1年のうちに地域の人たちにも浸透してきた感触はあります。この場所を媒介に、いろんな人が偶然の知り合いになっていくと良いと思います。
使い方のコンテンツと地元とのつながりも、もっと絡んでくると面白いと思っています。近所の方が良く前面道路を歩く姿を見かけますが、何をやっているのかなと覗くだけで通り過ぎていきます。イベント時には声をかけないと入ってきてくれない。そういった不思議な距離感のようなものが、これからの使われ方でどう変化していくかに興味があります。

中川:もともとアーティストの居住と生活の場を想定していたのですが、現在は、ア-ティストではない、主婦の方や学生さんも、生活しています。彼らは、広場を制作の場所というよりは、せっかくこの場所があるから使わないともったいないという意識もあって、日常を拡張する場所として使っています。大勢の人を家に呼んでみたり、趣味を思い切って発表する場所に使ってみたり、2階に置く家具を自分でつくってみたりと、やってみたいと心のどこかで思っていたけど、特に場所もきっかけもないから手を出さなかった類いの体験をしているようです。それは、空間に引張られて、生活の可能性が広がっているということで、とても嬉しく思っています。近所の方も、通りすがる度、私ならこう使ってみたいと、自分の問題として、この場所を考えて下さる方がいます。
そのように、地域の方も入居者も、日常の生活のほんのちょっと先の豊かさを求めて、気負わず使ってほしいです。人が変わっても、それが継続していくことに意味があると考えています。

真壁:この建物の実験性は、非常に意義があると僕は思うのです。それが見え方として、「私」なのか「公」なのかも分からない。特に通りがかっている人には。だから、そういう人たちが、一歩踏み込みはじめたときには、もっともっと濃厚な関わりが生まれるんでしょうね。

西田:何かのきっかけでこの場所を使うと、自分の場所のように感じ、自然となじんでいると良く聞きます。新しい地域になじむとか、建物が使い手になじむというのは、自分の肌感覚で居場所を見つけることなのかなと思います。この場所に今日も学生さんに来て頂いておりますが、座ったり歩いたりする中で自分の居場所を認識すると、断然次回に来やすくなる。その感覚の積み重ねで認知されていくと、エリアにも、エリアを飛び越えた人達にも生活の延長として認知されていくという実感があります。

ヨコハマアパートメント

篠原:西田さんは、今お住いになりながら、アパート内のコミュニティにも関わられています。そのスタンスはこの先も続けられるのでしょうか。それとも、ある程度、この場所がこの地域になじんだ時には、また違うところへお引っ越しになるのか。この先のこの建物との関係は、どのようにお考えですか。

西田:僕は住み始める際に、気候変化や様々な状況を知るために一年間住みますと伝えました。そして、ちょうど一年がたったので、恐らく今年中には退出する予定です。オンデザインが継続的に毎月の入居者連絡会には参加するので、僕とヨコハマアパートメントの継続性は変わりません。しかし今、僕の家族も住んでいますが、彼らがこの場所から出て行くと関係が切れるかと言うと、イベントがあれば来るし、実家のような感じでやりとりが続くと思います。これまでの入居者とも面白いつながりができており、出て行ったあとも "同じ場所で育った同士"みたいな感覚に少しなっていると思います。現代版地縁が生み出しているコミュニケーションなのだと思います。

中川:オンデザインが仮にいなくなったとしても、この空間性がある限り、ここでの生活や状況は変わらない。起きたことが入居者、近所の方によって、継承されていく。そのような状況がもし生まれれば、この建築の意義がより深まるのではないかと思います。

真壁:西田さん、中川さん、どうもありがとうございました。それでは、今度は少し篠原さんが設計された「コルテ」という集合住宅の話をうかがいたいと思います。

第4ターム 家の知/討議 動画配信

テーマ:「2010年共同的住まいのあり方」 in ヨコハマアパートメント
篠原聡子×西田司×真壁智治×中川エリカ(特別ゲスト)

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