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連載コラム
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家の知/討議 第3タームvol.19 2010年、建築家が考える「エコハウス」(1/3) 竹内昌義×難波和彦×真壁智治

  • 竹内昌義(たけうち・まさよし)東北芸術工科大学教授/みかんぐみ

    竹内昌義(たけうち・まさよし)

    東北芸術工科大学教授/みかんぐみ

  • 難波和彦(なんば・かずひこ)東京大学教授/難波和彦+界工作舎

    難波和彦(なんば・かずひこ)

    東京大学教授/難波和彦+界工作舎

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

イギリス/山形/オーストラリア

真壁:今回は、ホスト役として難波和彦さん、そして新たにゲストとして竹内昌義さんにお越し頂きました。異なる世代による討議となります。竹内さんたちが設計され、2010年3月に竣工した「山形エコハウス」と、難波さんが設計され、2010年9月に竣工した「環境共生住宅ココラボモデル」。この二つは開発の背景が異なります。「山形エコハウス」は、山形県が環境省の助成を受けて行った21世紀環境共生型住宅のモデル整備事業の一環として。一方、「環境共生住宅ココラボモデル」は、民間企業と大学、生活者の三者がコラボレーションしながら「家」というものを構想し、開発していくプロジェクトでした。今日は、この二つを取り上げながら今日的な「エコハウス」について討議できればと考えています。
以前から、建築家が住宅というものを考えるときに、どうもこういったエコ的な問題、環境共生住宅という問題に関して、割と冷ややかとまではいかなくても、建築家たちは、さほど旺盛な関心を示していないということは、どういうことなのだろうかと考えていました。ですから、エコハウスに対する難波さんよりも若い世代の竹内さんの取り組みも、設計事務所「みかんぐみ」としての流れの中では、最初から関心の所在が旺盛だったとは思えない。だから、今回、お話をうかがうなかでその経緯などもうかがえればと思います。それでは、まず竹内さんから「山形エコハウス」についてお話いただけますでしょうか。

竹内:真壁さんのお話の通り、僕自身もエコというものを考えることに最初は凄く抵抗がありました。難波さんがアルミのエコハウスなどをはじめとして住宅と環境との共生に取り組まれていても、どちらかというと引いて見ていた感じが強かったです。そこから私がエコハウスをつくることになるまで、2つの出来事がありました。

竹内昌義

まず、ひとつは、2007年にイギリスのマンチェスターのちょっと北にある、バローという場所を訪れたことです。ここは古くは鉄鋼の町として栄えたところで、200年ほど続くタウンハウスがあった。それまで僕らが取り組んでいた団地再生計画などを見ていたアートカウンシルの方に、そういう取り組みを取り入れたいという意向があり、私たちみかんぐみがアーティスト・イン・レジデンスを行うことになったのです。
その時にある人を通じて、ウェールズの方にある、C.A.T(Centre for Alternative Technology)を訪ねました。ここは、地球環境と調和した生活を提唱するテーマパークのようなところで、研究・教育機関としても世界的に注目されているところです。訪ねてみると、地面を掘って蓄熱層をつくっていたり、既存エネルギーを使わないで水力のケーブルカーがあったり、いろいろなエコハウスもある。環境的な技術などもたくさん展示しているのですね。

Centre for Alternative Technologyのウェブサイトさまざまな試みが紹介されている。日本語サイトも用意されているから驚きだ。 Centre for Alternative Technologyのウェブサイトさまざまな試みが紹介されている。
日本語サイトも用意されているから驚きだ。

一緒に行った現地の人が、どんなエコハウスを建てるのか相談しにC.A.Tへ行ったら、昔はヒッピーぽいところだったのに、既にヒッピーのような部分は全くなく、環境についての様々な問題に取り組む、政府の補助金がしっかりと付いた研究機関になっていたのです。だから、相談しようとしても、とてもドライに「コンサルタントについては週いくらです。」といったことを言われて、その方は非常にショックを受けていたのですね。彼としては、お金でやりとりするのではなくて、もっと緩やかにいろいろな情報が欲しいと。けど、僕は逆にそれを見た瞬間に、「あっ、これは面白いな」と思ったんです。これからは建築の世界でも、いろいろなものがメインになり得るということ、そういった流れが世界では起こりつつあるのだということを、初めて肌で感じたのがこの経験でした。
それともうひとつは、山形での経験です。僕は2001年から山形市の東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科で教えているのですが、学科としてどのような取り組みをしていくべきかという話を学科の先生たちとする中で、山形だからできることをやろうという話になったんです。もちろん東京に追いつけという発想もありますが、そうではなく逆に山形で何ができるのか、ということを考えるという方向です。山形というコンテクストを読み込んでいくと、非常に自然がたくさんあるし、実際、そのような山形特有の問題について取り組んでいる人たちもたくさんいる。大学から、このような状況を何とか生かした試みをはじめたいと思ったのです。

左:東北芸術工科大学のウェブサイト。 右:東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科が山形という土地を読み取り、あるべき未来の山形のために考えた「サスティナブルタウンのための10の提言」。 左:東北芸術工科大学のウェブサイト。
右:東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科が山形という土地を読み取り、あるべき未来の山形のために考えた「サスティナブルタウンのための10の提言」。

書籍

その流れで、学会等でカーボンニュートラルなどについて、研究されている同じ大学の三浦秀一さんや馬場正尊さんと、少しずつ勉強会をやりはじめたのが、僕が「エコハウス」を考えるようになったきっかけとなりました。ただ、勉強会を重ねていっても、何もアウトプットがないと、だんだん飽きてきてしまう。そこで、山形でのさまざまなことを生かしながら、21世紀の家について考える、アウトプットを含めた本をつくろうということになったのです。
そして、大学内や外部の専門家の方々に、「エコ」についてのさまざまなことをうかがっていきました。例えば、カーボンニュートラルから素材や断熱にいたるまで、「エコ」にまつわる基本的なことを紐解いていったのです。だから、僕が取り組んでいる「エコ」というものは、どちらかというと、それほど強制的、積極的な「エコ」ではありません。あくまで、これを知っておかないと損をしますよ、というレベルの話が基本です。 先ほど、真壁さんから建築家が「エコ」についての関心が低いという話がありましたが、やはり「エコ」にはうさん臭さがたくさんつきまといます。例えば、さまざまなメーカーが商品を売るために「エコ」ということも前面に押し出す。もちろんその取り組み自体は良いのですが、その入り方が非常にうさん臭さを感じるのですね。それが、僕ら建築家を思いっきり引かせている要因のひとつだと思います。だから、僕らとしてはもっと"本質的なところはどうなのだろう?"ということを知りたかったのです。そして、この『未来の住宅 – カーボンニュートラルハウスの教科書』(2009年/バジリコ株式会社)が出版されました。
「エコハウス」というものを考えていくと、結果として導かれたのは木造住宅でした。これは当初、勉強会を重ねるなかで、何故木造なのかというところは、僕自身も一番納得できなかったのですが、逆に、すべてにおいてひとつひとつ納得してしまう経験をしていくことになったのです。

真壁:なるほど、イギリスと山形での実経験が、竹内さんが「エコハウス」に取り組むきっかけの背景としてあったわけですね。この本の帯には「本当にエコな家は、どんな姿をしているのか?追い求めた結果は、シンプルな木造住宅だった!」とあります。もう少し、具体的にそこへ至るプロセスをお話してもらえますか。

竹内:まず、この本をつくるに際して、私以外に建築家の馬場正尊さん、カーボンニュートラルなどが専門の三浦秀一さん、環境技術と地域建築などが専門の山畑信博さん、ランドスケープが専門の渡部桂さん、4人の同じ大学の先生方と共に本作りをはじめました。はじめるにあたり、木造住宅という選択に納得のいかない僕に、三浦先生が、やはり実際のものを見たら気持ちは変わりますよといったことを言われて。オーストリアの最も東の端にあるフォアアールベルクというところへいきなり連れて行かれたんです。
そこには、ピーター・ズントーのような非常に丹精な木造で、しかしきちんとした住宅性能も考えている建築家たちが、実にたくさんいて、ものすごい数の建物をつくっていたのです。数日間の間に、何十もの住宅を見たのですが「かっこいいな」というのが僕の第一印象。エコ的要素からつくりこんでいるはずなのに、とにかくかっこいいんです。訪れたのは3月ごろだったのですが、それでも外気はマイナス10~15度と寒いんです。けど、そういった住宅に入ると中は15度くらい。だいたいは、地熱を利用して暖房をしているところが多いのですね。

左:オーストリア フォアアールベルグ地方に広がる風景。太陽光発電やバイオマスを利用した先進的なエコハウスが数多く建てられている。 右:オーストリア フォアアールベルグ地方、ヘルマン・カウフマン設計の住宅 左:オーストリア フォアアールベルグ地方に広がる風景。太陽光発電やバイオマスを利用した先進的なエコハウスが数多く建てられている。
右:オーストリア フォアアールベルグ地方、ヘルマン・カウフマン設計の住宅

その他にも、例えば、この町には公共建築は4つくらいしかありません。小学校と幼稚園と役所と消防署。これらが全て、木造でできているんです。ほとんどが、ヘルマン・カウフマンさんの設計によるもので、彼が設計した、町役場と保育園と郵便局が一体となった建物などは、見た目には大きな木造建築なのですが、CO2については、住宅二軒分しか出ていないというのですから、性能的にも驚くことがたくさんありました。

左:役場や幼稚園などがコンプレックスした複合施設。広場は350㎡のソーラー電池パネルで覆われている。木材は地域材、断熱材にはファイバーと羊毛が使われ、エネルギー効率が13.8kWh/㎡・年と高い。必要なエネルギーは住宅二戸分ほど。 右:小学校のリノベーションも木材で美しい。 左:役場や幼稚園などがコンプレックスした複合施設。広場は350㎡のソーラー電池パネルで覆われている。木材は地域材、断熱材にはファイバーと羊毛が使われ、エネルギー効率が13.8kWh/㎡・年と高い。必要なエネルギーは住宅二戸分ほど。
右:小学校のリノベーションも木材で美しい。

最初の2日間は、そういった建築物を見せてもらって、残りの3日は、三浦先生が企画したバイオマスエネルギーを知るためのツアーに行きました。例えば、木造の大きな橋を見学しながら、オーストリアでは、バイオマスを使った、いろいろなエネルギーの産業というのが、ひと段落して、何とか輸出産業に育てたいという方向へ向かっていることを学んだり、チッパーという木材チップをつくる機械なども見学しました。もちろん、こういった個別的なエネルギーの問題は一つの問題としてあるのですが、やはり、僕は一建築家として、いろいろ見たなかで、木でつくった空間がここまでシャープにできるものかと、そこが一番大きく、単純な驚きだったわけです。さらに、これらがその地方の観光資源としてツアーが組まれていることにも驚きました。

左:オーストリア ムラウにある長さ85mのヨーロッパ最大の木造。 右:トラック積載型の木材を砕く機械 左:オーストリア ムラウにある長さ85mのヨーロッパ最大の木造。
右:トラック積載型の木材を砕く機械"チッパー"。

真壁:そのオーストリアツアーをきっかけとして、この書籍『未来の住宅』のベースがつくられていったわけですね。そして、この本の冒頭では、カーボンニュートラルハウス(=CO<sub>2</sub>を出さない家)についてさまざまなデータと共に述べられていますが、そこが、全ての起点となっているのですか。

竹内:そうですね。カーボンニュートラルの先進国の未来の状況をみてみると、例えば、EUでは2019年にすべての新築、公共建築はカーボンニュートラルにしなくてはいけない。つまりあと10年もすると、ヨーロッパではカーボンニュートラルが大前提にならなくてはいけないことになっている。
けど、いきなりカーボンニュートラルとか言われても、日本で暮らし、普段、石油エネルギーを使って、CO<sub>2</sub>をどんどん出している私たちとしては、それをゼロにしなくてはいけないことを想像しても、結局、実感できない。「そんなことが、できるのかな?」というのが正直なところでした。けど、いろいろと勉強した結果として、この本では大きく3つのポイントを考えなくてはいけないと示しました。


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テーマ:「エコハウス」
難波和彦×竹内昌義×真壁智治

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