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連載コラム
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家の知/討議 第2タームvol.13 二人の建築家が考える、今、研究が設計にもたらすモノ 高橋晶子×小泉雅生×真壁智治

  • 高橋晶子(たかはし・あきこ)武蔵野美術大学教授/ワークステーション

    高橋晶子(たかはし・あきこ)

    武蔵野美術大学教授/ワークステーション

  • 小泉雅生(こいずみ・まさお)首都大学東京大学院教授/シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)

    小泉雅生(こいずみ・まさお)

    首都大学東京大学院教授/シーラカンスアンドアソシエイツ(C+A)

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

環境工学と空間デザインを重ね合わせる

真壁:お二人それぞれに“設計”と“研究”についてうかがいたいと思います。まず、小泉さんが行ってきた「ハウジング・フィジックス・デザイン」の研究についてですが、これはいつごろからはじまったものだったのですか。

小泉:はじまったのは2007年でした。JIA環境建築賞の審査員をやっているときに、環境的にも優れた建築物をいくつも実際に訪れて審査をしたのですが、そのときに同じ審査員の日本設計の大野二郎さんとお話する中で、住宅の応募が少ないという話になったんです。

高橋:この賞には住宅やオフィスといった部門があるのですか。

小泉:とくに部門はありません。例えば大手組織事務所が設計するオフィスビルなどは非常に重装備な環境的提案をしていて応募してこられる。でも、住宅はほとんど出てこなかったんですね。しかし、そういうことに意識を向けてデザインにチャレンジしている建築家もいるはずなので、その試みをクローズアップしよう、というのがきっかけです。
建築家による住宅の応募が少ない背景に、環境を意識したデザインというものに、建築家がネガティブなイメージを持っているということがあるように思います。だから、環境のことを意識して設計をしていても、それをあまり前面に出さないのではないか。

高橋:アトリエ派の建築家には、そういう傾向がありますよね。

小泉雅生

小泉:建築家は、環境を意識するとデザイン的に制約が生じるというふうに思っていたり、そこにまつわって社会的正義が振りかざされることに懐疑的だったりする。一方で環境工学の人たちは、建築デザインに対して根深い不信感がある。建築家は、ガラス張りでとにかく暑い空間をつくる、なんてことを言うわけです。
だけど、建築家は環境のことを無視しているかというと、実はそうではない。住まい手や周辺環境についていろいろと考えている。環境工学の人も、室内外の環境のことだけではなく、それがどう空間に組み込まれるかということを当然考えなくてはいけない。つまり、立ち位置や言語が違うだけなのです。だからこそ、そこを重ね合わせていく試みが必要だと考えたのです。
例えば、高気密・高断熱が環境工学で取り上げられる。僕ら建築家は部屋を細かく区切らないで、一室空間にしようということを提案している。実はこの両者はぴたっと重なるんです。断熱性能を高め、外皮の性能を上げると、家全体の温熱環境が担保され、一室空間としても温度斑がなくなり、内部空間の構成は自由になる。だから、互いを目の敵にするのではなく、環境工学で使われているキーワードを空間デザインの概念へと重ねていけるのではないか。

真壁:双方にブリッジを架けていくということですね。

小泉:そして、このことに概念として名前を付けようということで悩んだんです。もともと「ビルディング・フィジックス」という言葉があって、建築における音や光・空気などの物理的条件を考えていこうというものでした。今回は住宅に特化したもので、それをデザインに結びつけて考えていく、ということで、最終的に「ハウジング・フィジックス・デザイン」として、研究会をはじめました。

真壁:研究会のコアメンバーはどのような方々だったのですか。

小泉:槻橋修さん、大野二郎さん、奥村理絵さん、藤江創さん、柴原利紀さん、戸部芳行さん、深澤たまきさんなど、建築家だけでなく環境工学の研究者にも参加いただきました。

『ハウジング・フィジックス・デザイン・スタディーズ』(2008年|INAX出版)

真壁:その後、それらのコアメンバーを母体として、貝島桃代さん、西沢大良さん、三分一博志さん、曽我部昌史さん、五十嵐淳さん、藤本壮介さんなど、さまざまなゲストを迎えて「ハウジング・フィジックス・デザイン研究会」が行われていったのですね。そういう中から、建築デザインと環境の問題を、ある種学問として体系化しようとした、その発想がとてもユニークですよね。これがやはり研究の眼差しの重要なポイントだと思います。最終的には書籍『ハウジング・フィジックス・デザイン・スタディーズ』(2008年|INAX出版)としてもまとめられた。

高橋:私も興味深く読ませていただきました。本当にこの本の意義は大きいですよね。ひとつは、建築デザインの雑誌だと、どうしても論点を明快にするために、あまりそれ以外のことを言わない。一方、この本ではフィジックスという側面についてオリエンテーションされることで、違う切り口で住宅作品が見えてくる。もう一つは、住宅には空間の構成や光の取り入れ方などいろんな側面がありますが、環境的性能がある水準に達することにデザイナーたちもこだわっている。そのことを強く伝えていることに大変共感しました。

真壁:実際の空間に見ることができない、図面上では表現されない環境的ガイドラインがここにあるのですね。

小泉:今、さらに、そのフィジックス(物理的現象)・デザインが、具体的な住宅の中でどう展開しているのかということを分析した『環境のイエ』(仮題)という本をつくっています。藤井厚二さんの自邸<聴竹居>(1928)など16の住宅を訪問・取材をして、その空間の中での環境配慮技術を分析するんです。外観・内観写真の中にフィジックスを矢印や文字で記述する。空気の動きや熱の流れは写真に写らない。だから、直接写真の中に書き込んでいって可視化しようということです。住宅建築の見方を指南するようなものになりそうです。

高橋:こういう視点は面白い!学生にとって大変ためになりそうですね。

真壁:<聴竹居>もただ写真で空間として感じることと、フィジックスという視点で見えてくることは全く違うんでしょうね。『環境のイエ』の試みも「ハウジング・フィジックス・デザイン」の試みも実にイノベイティブです。『環境のイエ』も完全に研究として昇華されそうですね。

小泉:まぁ、研究と言われればそうかもしれませんが、やはりその根源は空間を何とか読み解き、伝えたいという好奇心です。

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