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連載コラム
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家の知/討議 第1タームvol.9 家をつくる家族と空間と技術の現在、実作「箱の家124」を通して 難波和彦×篠原聡子×真壁智治

  • 難波和彦(なんば・かずひこ)東京大学教授/難波和彦+界工作舎

    難波和彦(なんば・かずひこ)

    東京大学教授/難波和彦+界工作舎

  • 篠原聡子(しのはら・さとこ)日本女子大学准教授/空間研究所

    篠原聡子(しのはら・さとこ)

    日本女子大学准教授/空間研究所

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

家族の合意と一室空間の狭間で

真壁:今回の鼎談がこのメンバーで議論する最後となります。そこで今回は、これまでの話を含めながら、難波和彦さん、篠原聡子さんの住宅の実作を検証して、討議を展開できればと思います。まず、難波さんの作品について話をしたいのですが、今回の鼎談の前に先日「箱の家124」を見学させていただきました。私はそれ以前のものもいくつか見せて頂いているのですが「箱の家」シリーズがいろんな意味で熟成されてきていることに改めて感銘を受けました。

左:二階の吹き抜けからリビングを見る。二階奥に見えるのが子供部屋。
右:両親の寝室。夫と妻の入り口は別々とし互いの机が配され、ベッドを介してつながっている。

難波:「箱の家124」の家族構成は、親子4人の典型的な家族です。一階にはリビング・ダイニングを。二階には吹き抜け越しに両親の寝室と子供たちの部屋がL字に配置されていて、ちょうどL字の角の部分には小さな音楽室があります。

両親の寝室に関しては、共働きなので、2人がどう仕事と家庭生活とを上手くマネージするのかということをテーマとして、設計に取り組みました。そうするとひとつのポイントは「2人がどう寝るか」ということになるのです。そこで僕は、それぞれが別々の部屋を持って離れた方がいいと提案したのだけど、クライアント夫婦はやはり一緒がいいと言われました。とはいえ夫婦それぞれは身体感覚も全く違う。例えば、奥さんは寒がりで、旦那さんはすごい暑がりだったりするので、別室の方がいいんですけどね。結果としては、部屋の入り口は別々とし、それぞれの書斎があり部屋の中央のベッドを介して繋げました。

真壁:二階の音楽室も素晴らしい。子供部屋と両親の部屋の間にあるこの部屋が非常にクッションになっているというか、家族関係を形成する上で重要な空間なんですね。子どももお父さんもお母さんも集えるような場所になっている。しかも適当に狭いのもいい。
それから、もう一つプラン的にうまいなと思ったのは2階廊下です。この幅が絶妙ですね。ここで本を読んでもいいし、吹き抜けのボイドに向かった内側の廊下のよくこなれた存在感がとてもいいんです。各部屋とボイドの吹き抜けとの間のバッファーゾーンにもなっていて、部屋の延長空間にもなっている。この廊下の寸法は箱の家シリーズの当初から変わっていないんですか。

左:二階のL字型廊下の角部分に配された音楽室。家族全員が思い思いに楽器を楽しむスペース。
右:L字型廊下。写真右手が両親の寝室、左奥が子供部屋。

難波:廊下の幅は最初から変わっていません。尺間法にもとづいて設計しているので、廊下は75センチで統一されています。

真壁:この廊下はまるで縁側みたいな感じがありますね。ここに伺う前に、僕は難波さんから「箱の家124」は個室群住居の家の典型です、と聞いていたから、もう少しスパッと区切れているかと思っていたら、全く違っていました。
ちなみに子供部屋には引き戸がなく、ご夫婦のお部屋には引き戸がありましたね。

篠原:恐らくこれまで日本に存在した一室空間というものは、家長の絶対的支配の上に成り立っていたんだろうと思います。けれども、難波さんが作りだす一室空間は、それとは違うんだと聞いていて思いました。もっと家族の合意の上に成立している一室空間だと思うのです。

難波:本当にその通りだと思います。「箱の家」は典型的な戦後民主主義的一室空間です。その考え方は、明らかに池辺陽を踏襲しています。

真壁:その指摘は、非常に面白いですね。恐らくそれでも家長という役割が、ある程度はあるのだろうけど、例えば、子供が出て行ったり家長が高齢者になったときに、それぞれの役目が変わり、家族の合意自体も変化して一室空間が崩れ出すということもあるのでしょう。

篠原:そうですよね。だから、1人がイニシアチブをとっている状況や、合意が成立している状況から力関係が崩れそうになると、ある程度いろんなバリアを築いていくのでしょう。だから「箱の家」の一室空間は状況によって、適宜、仕切りが挿入されることによって家族のさまざまな形を受け入れられるのかもしれない。どういうふうに境界をつくるかは、家族の問題。これはすごく面白い。

難波:家族の幻想が崩れ出すと一室空間は崩壊していくのかもしれませんが、結局それは、家の内部のことであり、生活であり、住んでいる人の考え方など、目に見ることができません。家族関係の変化が空間に反映されるかどうかは、その家族によって異なります。

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