BACK
連載コラム
ボタンを押して、BOOKMARKに追加できます。
BOOKMARKする

家の知/討議 第1タームvol.3 住宅建築の新しい尺度としての「箱の家」 難波和彦×篠原聡子×真壁智治

  • 難波和彦(なんば・かずひこ)東京大学教授/難波和彦+界工作舎

    難波和彦(なんば・かずひこ)

    東京大学教授/難波和彦+界工作舎

  • 篠原聡子(しのはら・さとこ)日本女子大学准教授/空間研究所

    篠原聡子(しのはら・さとこ)

    日本女子大学准教授/空間研究所

  • 真壁智治(まかべ・ともはる) プロジェクトプランナー/M.T.Visions

    真壁智治(まかべ・ともはる)

    プロジェクトプランナー/M.T.Visions

「箱の家」の転換点からみた「家族」

真壁:難波さんの「箱の家」シリーズは、1995年にスタートし、2005年に「箱の家100」に達しました。2007年には「箱の家120」までが完成し、2009年現在では「箱の家130」までが設計中だそうですね。この「箱の家」の一連の設計活動においての転換点は、どういうものがありましたか。

難波:ひとつは、「アルミエコハウス」(1999)をデザインしたときですね。モダニズムの時代には、いろんな建築家がアルミで取り組んだプロジェクトがあったのですが、みんな熱の問題で失敗していたんですね。どれも寒くて住むことが難しいのです。例えば、飛行機や新幹線は外周部がアルミでできていますが、これらは軽さが最大限の最優先条件だから、薄いシェルのアルミで良いわけです。それに中にいる人たちも短時間しかいないので、ものすごいパワーで空調をすれば結露はしない。けれど、建築ではそういうわけにはいかない。だから、「アルミエコハウス」のときは熱の問題について徹底的に考えました。

アルミエコハウス撮影:坂口裕康 AtoZ
アルミニウム合金を構造に使った住宅のプロトタイプ・デザインを構築する目的で考案された。1999年9月に竣工、その後、リユース性の調査・研究の為、2006年9月に解体された。

難波:また、熱の問題を解決する一方で、音の問題も出てきました。アルミという素材がきわめて軽いので、音が伝わりやすくなってしまう。アルミ断熱パネルによって断熱性能は最高レベルであっても、遮音性能は3ミリガラス以下なんです。こういった性能のアンバランスは非常に難しい問題でした。これは住宅のハード面におけるターニングポイントですね。
もうひとつは、“箱の家版・個室群住居” 注釈(『新建築住宅特集』2003年4月号)ともいえる「箱の家087」(2003)を考え始めたときです。住居は、最初は家族が一緒に住んでいても、やがて子供が出て行く。そうなったときに友達と一緒に住むとか、夫婦の片方が亡くなってしまったときは、そこが共同住宅になるとか。戸建てだけど、これまでにない異質さをもった住まわれ方ができる家を考え始めました。

真壁:具体的にはどのようなプランになるのですか。

難波:例えば、夫婦のスペースを分けたんですね。とりわけ真新しいことはなくて、「箱の家」の中に個室群住居があるように、開いた個室が複数あるという形です。これが家庭内別居だとクライアントにものすごく抵抗されたのです。

篠原:それは誰に抵抗されるのですか。

難波:個室化に抵抗するのは、大抵は夫です。時には祖父母からの反対もあります。でも、奥さんからの抵抗はほとんどありません。夫は、家を家族の象徴だと考えていて、夫婦はいつも一緒にいるという夫特有の「観念」つまり「家族幻想」があるからでしょう。でも、現実には、夫は会社から帰ると酒ばっかり食らって大いびきかいている(笑)。奥さんもたまったもんじゃないですね。だからこそ部屋を分けるということが一つの解なんだけれど、家庭内別居では夫や祖父母はお金を出せないというわけです。

篠原:このことは、家族と家との関係を見ていく中で、大きな転換点だと思います。戸建て住宅であっても、共同住宅ということです。共同というのはそれぞれがそれぞれの暮らし方を尊重するということ。女性が経済的な力をもってきたことも大きいと思います。

難波:夫婦の考え方に、このような考え方の落差がある状態では“箱の家版・個室群住居”は実現できないと考えたので、『新建築住宅特集』2003年4月号に「箱の家058」(2002)を発表する際に『一室空間住居の近未来』というタイトルの論文を書き、そこで僕が考える近未来の住宅として一室空間によって共同生活を営みながら、家族のメンバーがそれぞれ自分の空間を持つ“箱の家版・個室群住居”について説明しました。その中で設計中の事例として「箱の家087」を紹介したら、反対していたクライアントの夫も納得してくれました。観念に対しては観念で勝負したんですね(笑)。その後、同じ考え方で2、3戸の“箱の家版・個室群住居”を設計して、これはいけると確信を持ちました。その後、2004年頃からは、先のエネルギーのことについても性能は徐々に上がっていったわけです。

箱の家058撮影:坂口裕康 AtoZ
夫婦と子供1人のための住宅。1階部分を鉄骨造のピロティとし、その上に2層分の木造の箱を載せた構成となっている。住居部分の平面計画は、共用空間の吹抜けを囲うようにSOHO、子供室、寝室がアルコプとして配される。
 竣工年月   2002年8月
 延べ床面積 130.95 平方メートル
 工法      鉄骨造+集成材造

箱の家版・個室群住居 難波氏が(『新建築住宅特集』2003年4月号)で論じた一室空間的住居の提案。「このような空間構成は、これからの家族のあり方に対するひとつの提案である。一室空間によって共同生活を営みながら、家族のメンバーがそれぞれ自分の空間を持てば、夫婦、子供、老人が同居できるような住まいになりうるのではないか。僕はこれを「箱の家版・個室群住居」と名づけたい。」と結論づけている。

こちらのおすすめ記事もいかがですか?