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連載コラム
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ディテールの冒険vol.17 マリオ・ボッタの開口部〈前編〉

環境と呼応する建築

シリンダー、キューブの純粋立体に、「コンクリートブロック」というモデュール化し、一般的に流通している工業製品を纏い、豊かな外観を創り出している美しい一連の住まいがあります。その一連の住まいは、冬でも暖かく快適な気候でヨーロッパ有数の保養地でもあるスイス、ティチーノ地方に建っています。その美しい住まいを設計したのがマリオ・ボッタです。
マリオ・ボッタは、1943年この一連の住まいが建っているティチーノ地方で生まれました。彼は、若い頃から勉学のかたわら設計を始めています。設計をしつつベネチィア大学で学び、近代建築の3人の巨匠ル・コルビュジェ、ルイス・カーン、カルロ・スカルパのところで修行し、卒業したという輝かしい経歴の持ち主です。初期の作品である"ジェネストレリオの住宅"は18歳の時に設計したものです。なんと早熟なことでしょう。
ジェネストレリオの住宅[クリックで拡大] 石積みのままの素朴な外壁などバナキュラーな印象の中にも、横長な連窓や正方形の窓など、開口部に近代の形態要素を取り入れています。また、彼は工事現場にはほぼ毎日通っていたと言われています。現場漬けの毎日だった若き日のマリオ・ボッタが、建築が造られていく過程で施工技術や施工手順など建築の基本を、体に染み込ませていったと思われます。この現場を知り尽くした経験とティチーノ地方の職人達の伝統を継承した施工技術が、多彩な表情を見せる美しいコンクリートブロックの外皮を生み出しえたわけなのです。

カサ・ロトンダ[クリックで拡大]

「建築とは人間と自然の新たな平衡感覚をつくることであり、自然に対峙することが建築の本来の姿だ。」また、ある対談で「建築とは大地に根をおろしたものであり、ひとつの場所に唯一の解があるのみです。望むと望まざるにかかわらず、ひとつの住宅を設計することはその場所を設計することなのです。それはまさに〈場所を変形させる行為〉です。建築行為とは、ある均衡の保たれた状態を人間の手によって新しい均衡状態に変形させる行為です。」とマリオ・ボッタは述べています。建築はそれひとつでは成り立たず、周りの環境と一体となって成り立ちます。すなわち、環境に応じて設計することが必要で、建築が建つ環境によってどれひとつとして、同じ解答がないということです。建築はひとたびその場に建ち上がるとそれが新たな環境となります。建築が建ち上がるその環境をいかに理解し、その環境を引き継ぎつつその場に調和した新たな環境を創り出せるかが重要です。それを実践したのがマリオ・ボッタなのです。

堀 啓二(ほり・けいじ)共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授/建築家
共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授 / 建築家堀 啓二(ほり・けいじ)

1982 年東京芸術大学美術学部美術研究科建築専攻修了。1983-85 年有限会社デザインリーグ勤務。1989 年株式会社 山本・堀アーキテクツ設立。2000-02 年 明治大学工学部建築 科非常勤講師。2000-04 年 工学院大学建築学科非常勤講師。2004 年 共立女子大学家政学部生活美術学科建築専攻助教授。 2010 年 共立女子大学家政学部建築・デザイン学科教授

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