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連載コラム
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ディテールの冒険vol.15 スカルパの開口部〈前編〉

時間を繋ぐ空間—新旧の個性が奏でる美しいハーモニー
とにかく美しい。

ブリオン家墓地のエントランス正面[クリックで拡大]

この図は、建築を勉強した皆さんは、一度は目にしたことがある開口部ではないでしょうか。古い時代の匠の技である木の型枠を用いてつくられた、荒々しさの中にも落ち着いたテクスチュアを持つコンクリート打ち放しの壁に穿たれた、ブルーとエンジのモザイクタイルが象眼された開口部です。開口部というよりは、むしろ私には静謐さの中にも気持ち良さを生み出す空間芸術に見えます。
これは、イタリアの建築家カルロ・スカルパの作品、ブリオン家墓地のエントランス正面の双子の丸窓です。アプローチは陰に包まれています。丸窓からは窓に切り取られた明るい広がりのある風景が見えます。丸窓は現実と極楽の境界の様で、生と死の一線を感じさせます。丸窓はその境界を象徴的に表現している様に思えるのです。
カルロ・スカルパの作品はそのほとんどが古い建物の改修です。周りには共同の墓地があり並木道が続く環境にこの墓地はあります。この区画の中では新築ですが、周辺環境の増築ともいえるように周りの環境と一体となっていて、何年もの時を刻んできたかの様に自然なたたずまいの造形です。

京都の町並やヨーロッパの町並などは、古いものを活かしつつ現代の生活に対応した改修や改築を行い美しい環境を財産として継承しています。また、代官山のヒルサイドテラスは、約25年の長い時間をかけひとりの建築家がつくり出した賑わいのある街です。優れた集落や街は、その建築ができた時に完成するのではなく、時間をデザインのファクターとして取り込み、〈時の流れ〉の中で成長し成熟することによって創られていきます。
ヒルサイドテラスは、6期に分けて計画されました。6期25年の間には建築の材料、技術や法規そしてテーマも変わります。各期の建築は、その時代の最も新しいテーマに沿って建てられます。以前自分が創った建築が既存の環境として街を形成します。それを既存の環境として対象化し、それに迎合するのではなく、その時の最もよい解答を見つけ新たな空間を創り出してきました。このように良い建築には必ず時間の蓄積があります。
建築群がつくり出す街も、当然時間とともに成長し、豊かな空間に成長します。建築は、人が使うものです。すなわち生活環境や社会環境の変化に対し、コンバージョンも含め改修して建築を活かし使い続けるのは人間です。現在、地球環境の悪化が叫ばれる中、時代を経てもその価値を十分理解し、使い続けることが人間にとって、そして地球にとって最も大事なことです。それを実践し、古い物と新しい物を巧みに融合し現代に繋げてきたのが、カルロ・スカルパだと思います。

堀 啓二(ほり・けいじ)共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授/建築家
共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授 / 建築家堀 啓二(ほり・けいじ)

1982 年東京芸術大学美術学部美術研究科建築専攻修了。1983-85 年有限会社デザインリーグ勤務。1989 年株式会社 山本・堀アーキテクツ設立。2000-02 年 明治大学工学部建築 科非常勤講師。2000-04 年 工学院大学建築学科非常勤講師。2004 年 共立女子大学家政学部生活美術学科建築専攻助教授。 2010 年 共立女子大学家政学部建築・デザイン学科教授

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