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連載コラム
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ディテールの冒険vol.14 R.M.シンドラーの開口部〈後編〉

敷地全体がひとつの住まい

キングス・ロードの自邸[クリックで拡大]

R.M.シンドラーのキングス・ロードの自邸は、友人のチェイス一家との共同住宅です。R.M.シンドラーはそのキングス・ロードの自邸について数々のコンセプトを述べています。
「私たちの部屋は地面に届くほどに低くなり、庭は家を統合する役割を果たす。室内と室外の区別は消え去るであろう。私たちの家は、表や裏の区別もなくなるのである。壁は少なく、かつ薄く、可動式となる。すべての部屋は、覗き穴付きの小さな個別の箱ではなく、全体でひとつの有機的なまとまりをなすようになるだろう。」
また、キャンピングカーでチェイス一家と訪れたコヨミテへの旅行で、屋外に開かれた家の発想が生まれました。
「家の各室は、構造および建築上のひとつの主題に基づく変奏を体現するものだ。その主題の内容は、キャンパーの住居に必須な基本条件を満たすものである。すなわち、背後を固め(コンクリート)、正面を開放にし、暖炉を設け、屋根をかぶせる(木造)‥‥等々。各室の形状、各室と各パティオとの関係、各室ごとに屋根の高さが異なることなどにより、屋内屋外間にまったく新しい空間的相互関係が生まれるのである。」
温和な環境の南カリフォルニアには、屋外居住スペースも屋内の一部と見なして暮らすという、キャンプのようなアウトドアライフを生活の一部とする生活習慣があります。南カリフォルニアでは樹木や生垣はよく育ちます。この住宅では、コンクリートや木の壁と同様に、生垣を自然の壁として用い空に向かって開かれた"外の部屋"を形成しました。このような生活習慣を体現するために、R.M.シンドラーは、間口100フィート(30m)×奥行200フィート(60m)の敷地全体をひとつの家として考えました。敷地全体を、コンクリートの壁と木の軽い屋根により囲い込まれた部分と生垣により領域感を持ちつつ開かれた部分に2分されたひとつの居住スペースと見なし、建築とランドスケープが一体となった気持ちのよい住まいを創り出しました。

内部のスタジオと"外の部屋"を一体化する開口部

R.Mシンドラー一家のスタジオをPATIOより見る[クリックで拡大]

囲い込まれた家屋部分は、4つのスタジオと1つのゲストスペースと1つのガレージで構成されています。4つのスタジオは、4人の居住者が個々に利用する居間、仕事場、娯楽室を兼ねるスペースです。家族ごとに2つのスタジオがL型に連結されひとつのユニットになり、ゲストスペースとガレージとともに風車の様につなぎ合わされています。L型のスタジオは背後のコンクリート壁とガラスFIXの格子、キャンバス地が張られた引戸による開口部で構成されています。この開口部によりスタジオは、視覚的にも物理的にも"外の部屋"に開かれています。この引戸は、取り外し可能で、まさしくフルオープンとなり、自然と一体となった新しい居心地の良い空間を生み出しました。
平面図は、とても明快でR.M.シンドラーのこの住まいへの思いが伝わってきます。皆さんにも平面図を見て感じてもらえると思います。しかし、ひとつびっくりしたことがあります。平面図のどこにも寝室らしき表記がないのです。私が描き忘れた訳ではありません。それは、南カリフォルニアの生活習慣から、エントランス上部の屋外に設けられた「スリーピング・バスケット」で寝ることが想定されていたためです。まさしくキャンパーの住まいですね。


堀 啓二(ほり・けいじ)共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授/建築家
共立女子大学家政学部 建築・デザイン学科教授 / 建築家堀 啓二(ほり・けいじ)

1982 年東京芸術大学美術学部美術研究科建築専攻修了。1983-85 年有限会社デザインリーグ勤務。1989 年株式会社 山本・堀アーキテクツ設立。2000-02 年 明治大学工学部建築 科非常勤講師。2000-04 年 工学院大学建築学科非常勤講師。2004 年 共立女子大学家政学部生活美術学科建築専攻助教授。 2010 年 共立女子大学家政学部建築・デザイン学科教授

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