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設計のヒント
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LIXILのディテールvol.15 パッシブという手法による、住まいの効率化の再考<前編>―環境と共生する建築本来のありかたについて

  • 野沢正光建築工房 藤村真喜(ふじむら・まさき) 1983年 大阪生まれ/2005年 京都大学工学部建築学科卒業/2007年 同大学院工学研究科 建築学専攻修士課程修了/ 2007年 野沢正光建築工房 入社

    野沢正光建築工房

    藤村真喜(ふじむら・まさき)

    1983年 大阪生まれ/2005年 京都大学工学部建築学科卒業/2007年 同大学院工学研究科 建築学専攻修士課程修了/ 2007年 野沢正光建築工房 入社

  • LIXIL 藤井文徳(ふじい・ふみのり) 株式会社LIXIL/営業商品統括部 環境企画部

    LIXIL

    藤井文徳(ふじい・ふみのり)

    株式会社LIXIL/営業商品統括部 環境企画部

  • LIXIL 保坂修一(ほさか・しゅういち) 株式会社LIXIL/スケルトン商品開発部 設計サポート企画グループ

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    保坂修一(ほさか・しゅういち)

    株式会社LIXIL/スケルトン商品開発部 設計サポート企画グループ

  • LIXIL 桝秦将(ます・やすのぶ) 株式会社LIXIL/総合研究所企画推進室

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    桝秦将(ます・やすのぶ)

    株式会社LIXIL/総合研究所企画推進室

  • LIXIL 圖師丈揮(ずし・たけき) 株式会社LIXIL/商品本部 住宅サッシ統括部 サッシ商品部 商品企画グループ

    LIXIL

    圖師丈揮(ずし・たけき)

    株式会社LIXIL/商品本部 住宅サッシ統括部 サッシ商品部 商品企画グループ

――今回は、野沢正光建築工房(以下野沢事務所)で設計業務に携わっておられる、藤村真喜さんにお越しいただきました。時代の流れにある、省エネルギーハウス・パッシブハウスへの取り組みについて、じっくりお話をお聞かせいただければと思っています。

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藤村:分かりました。よろしくお願いいたします。

――藤村さんは、学部や院の制作では、どういうことをやられていたのですか?

藤村:私は、4年生の時も大学院の時も建築史研究室に籍を置いていて、論文で卒業・修了しました。

――それはとても大事なポイントです。貴方は、元々設計には興味があったのですか?

藤村:そうですね。設計の授業が始まった2年生の時は、単純に楽しいなと思っていました。特に当時はさまざまな建築が世にあふれていて、最初はデザインの面白さが重要と思っていたのですが、設計演習を学んでいるうちに次第に疑問が募ってきました。

――疑問というと?

藤村:当時大学で学んでいた建築が、本当の意味で今の時代に合った建築なのか、自分の方向性も含めて分からなくなってきたのです。そうしたときに、一度設計から距離を置き、元々日本建築に興味が有ったので、歴史研に行ってみるのも良いかなと思いました。

――そうすると、野沢さんと最初に出会ったのはいつ頃になりますか?

藤村:3年生の時、大学に非常勤で野沢が来ていた設計演習で初めて会いました。

――先ほどの歴史研というのは、3年生から選択出来るのですか?

藤村:選択は4年生からです。ただ、3年生の時に野沢と出会ったことと歴史研に行ったこととは、まんざら繋がらないこともないかなと思います。設計から距離を置いて自分の進み方を考えようと思ったきっかけのひとつだったかもしれません。
説明すると長くなりますが、当時布野先生が企画を続けてやっていらした、岐阜の加子母村の木匠塾での体験も大きいです。

――布野修司さん。東アジアの集落研究を専門にしている方ですね。

藤村真喜

藤村:はい。その木匠塾というのは、岐阜県加子母村(現中津川市)で工務店さん、大工さんに協力していただき、学生が夏休みに物作りをする場なのですが、そこに私は1年生から修士課程の2年生まで毎年参加していました。今思うとその経験や大工さんとの出会いに大変影響を受けたと思います。そこで実際に建物を建てる行為自体はすごく面白いと思えたのですが、それと学校での設計というものが私の中で分離してしまって。実務的に面白いはずなのに今学んでいることはどこに向かっているのかな…という疑問ですね。

――なるほど。極めて深刻な問題意識ですね。とてもラジカルで本質的な疑問です。

藤村:そんな時に野沢に教わったのですが、講義の中で熱の動きや質量の重さ軽さ、実務的な根拠を考えて設計するように言っていました。当時設計演習を教えている先生方の中ではとても異色でした。

――要するに、観念やイメージが先行する頭デッカチだけでは設計は出来ないと。

藤村:表層的なものを徹底的に批判しながら、建物を建てる根拠を本を読む、詳細図を見るなどきちんと勉強しなさいということを重ね重ね伝えていて、それがその時の私にはとても新しく感じられたんですね。

――よく分かります。

藤村:当時のデザイン偏重の流れに疑問を持っていたのだと思います。それが、設備の話とか熱的な話というのはとても分かりやすくて、そこから建物が決まるというのは、実務と繋がっているから言えることであって、そこに刺激を受けました。そのことと、先ほどお話した木匠塾で大工さんから学んだ軸組の成り立ちや作る順序、仕口、道具のこと、木のこと、完成した時の充実感といった体験が重なって、たぶん建築は面白い、ただ、今は設計はやりたくない…と思って。(笑)
その時一度離れてみたので、今、設計をやっているのだと思います。実務の現場で設計をやってみないと向いているかどうか、続けられるかどうか自分で決断する根拠もないという気持ちになったのを覚えています。そのまま設計を続けていたら、多分今は設計事務所にいないのではないでしょうか。

――藤村さんの学部、院での過ごし方をうかがっていると、大学で野沢さんを通して「ハウジング・フィジックス・デザイン」に出会う。これは、建築家人生でとても大きな契機になったんだと思います。野沢事務所で学び出したことの意味がすごく良く分かりました。
それでは、普段設計業務に際して野沢さんから指導を受けているポイントについて触れていただき、そこから、実際に関わった物件についてお話しいただければと思います。

藤村:入社して始めのころによく聞いたことは、物にはそれぞれ質量があるので重さを感じて設計しなさいということでしょうか。それに伴って、軽い物は上に重い物は下にというのが当たり前だから、基本のそういうところを忘れて変な大きさにしないように原寸で考えろ、ということはいつも言われています。

――重い軽いというのは?

藤村:人の体と繋がるようなものだと思います。記憶や感情といったことも含まれるかもしれません。

――物性、質量、密度、質感といった物の存在のしかた、そして記憶、感情、気配などの意味的なことも含めて、ということでしょうか。いずれにしても肉体、身体性を建築への思考のベースに置くことには、私も同意できます。

藤村:それから、序列ということ。例えば力の流れを踏まえてどういう風に梁配置をしていくかということや、ゾーニングの際にどこにどういう部材がきて、という序列ですね。それが木造の軸組においてすごく明快だと思います。作り方にも序列があるし、外皮があって中があって小さい物にいくにつれて…というその構成要素の序列も大切にしているかなと思います。

――建築を構成する物の序列というときに、部材のメンバーのこともあるし、構造的なこともあるし機能的なこともある。多様な意味を含んでいるということですね。

藤村:はい。それから、工種を意識してディテールを考えるということ。
一つの現場で、違った業種のものが交差することによって合理化が阻まれないように、できるだけシンプルに順番に作れるように考えています。分離という言葉を良く使うのですが、工種の違う何かと何かがくっついているとそれらを一緒につくらなければいけないので、分離して組み立てられるものはできるだけ分離して設計するということです。

――それはスケルトン・インフィルの話ともつながることですね。

藤村真喜

藤村:最後のポイントが、架構に正直にということです。野沢は、軸組を隠して平滑に美しく仕上げることに抵抗があるようです。見えてくることの責任というか。木造の場合、事務所では表しが多いのですが、そうすると設備を納めるところであったりサッシの納まりであったり、きちんと考えておかないとプラスターボードで隠すという訳にはいかないので。(笑) そういうところを考えろ!ということだと思います。

――野沢さんが指導の根本に据えているこの4つの指標には、建築というものをどのように合理的に考えていくのかというエッセンスが込められていますね。それから、今出てきませんでしたが、パッシブ的な見地から温熱環境というものも、その道筋で同時にスタディしていくわけですね。

藤村:はい、そのとおりです。

――ところで、今言われたようなことを、学部の3年生の時に野沢さんは授業で喋っていたのですか?

藤村:多分、近いことを言っていたように思います。(笑)
そこで私は、ものを作るということがとても意識しやすく、面白く感じたような気がします。

――その折、野沢さんは建築のあるべき姿を、作り方も含めて示したということでしょうね。そういうことで、ご紹介いただく3事例、楽しみに見させていただきたいと思います。

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